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シャーロットは夜のドレスに着替えていた。

クリーム色のドレスに、濃紺のレース飾りのついた少し大人びたデザインだった。髪を結い、少し化粧もしてある。

「遅くなりました」

席についたのはシャーロットが最後だった。

妹のアデリンとエーリアルも精一杯のおしゃれをして、つんとおすましして座っていた。

アデリンは12才、エーリアルは11才だ。

長いテーブルで、シャーロットの斜め向かいにエドワードが座っている。いつも通り穏やかな笑みをたたえていた。


ちらりとエドワードが食べる様子をみる。父や伯父と談笑するエドワードはすっかり大人の仲間入りで、領地の事など難しい事を話している。男らしく筋のはった手を優雅に動かし、食事を進めている。そしてなにより微笑んだり、話したり、食事をする度に動く少し薄めの形よい唇をみつめてしまう。

シャーロットは見るのをやめようと目を伏せて、料理に集中することにした。


「…ね、シャーロット」

マーガレットに名前を呼ばれピクリと目を向けた。

「ごめんなさい、少し聞いていませんでしたわ。なんでしたか?伯母様」

「ひさしぶりにピアノを聞かせてほしいわと言ったのよ?シャーロット」

ふふっとマーガレットが言った。

隣の応接室には、ピアノがおいてある。

「うれしいですわ、そうおっしゃって頂いて。それでは後ほど」

「お母さま、私たちもお姉さまのピアノを聞いてもいいかしら?」

アデリンが可愛らしく聞いた。

「ええ、でもそのあとはお部屋に戻るのよ」

「はい!」

アデリンとエーリアルが嬉しそうに声を上げた。


応接室にいくと、みんな思い思いの場所に座る。

シャーロットは、ピアノの前に座ると

「何かリクエストがあるかしら?」

「あれがいいかな?」

父が言ったのは、技巧のいる華やかな曲。

シャーロットはうなずいて、ピアノを演奏し始めた。

嗜みとしてはじめたピアノはシャーロットはそののめり込む性格も相まって、毎日練習を欠かしていない。お陰で上達し続けている。

難しい曲に挑戦するのも楽しい。


「すてきーお姉さま!」

アデリンがぱちぱちと拍手した。

「ありがとうアデリン」

エーリアルもキラキラした目を向けた。

「アデリンもエーリアルもお姉さまを見習って、練習なさいね」

母が言うと

「だって、お姉さまはなんでもとっても上手なのよ。わたしは難しくってなかなか出来ないの」

アデリンが頬を膨らませて言う。

「そうそう!」

エーリアルも言う。

「お姉さまだってはじめからなんでも上手だったわけではないわ。たくさん練習したから、上手になったのよ」


シャーロットは少しイライラした。母は、難しくて出来ないなんて、簡単な口答えすらシャーロットには許さなかった。なんでも、出来るまで厳しくされた。

シャーロットは、次の曲をしっとりとした曲を選び弾きはじめた。

ピアノに集中して。曲の世界に入って、忘れよう。 いつもそうしてきたのだから


弾き終わるとシャーロットは立って

「アデリン、エーリアル、おやすみなさい」

と言って二人の妹たちの頬にキスをした。

そして子守唄を弾く事にした。


妹たちが居なくなり、両親たちはお酒を飲みながら談笑している。

シャーロットはエドワードとボードゲームをしている。

ゲームはなかなか強くならない。いつもたくさんハンデをもらっても勝つことが出来ないのだ。

「あぁ!ゲームはやっぱり苦手!」

シャーロットは軽く両手をあげてお手上げのポーズをとる。

ちらりと時計をみて、

「そろそろ休みます」

と告げてシャーロットは立ち上がった

「部屋の前まで送るよ」

エドワードも席をたち、続いた。


「いいのに、自分の家なのよ?」

シャーロットは笑って言った。エドワードの肘に手をおく

「シャーロットはもうレディの仲間入りをするんだから、男を杖がわりにすればいいんだ」

エドワードは笑っていった

「あら、杖だなんて」

くすくすと笑った。

実際ヒールを履くと、階段などは安心ではある。

高いヒールで捻るとかなりの衝撃だ。

「ここでいいわ。ありがとう」

エドワードはシャーロットの手の甲にキスをした。

すっかりレディ扱いに、シャーロットは少しどきまぎしたけれど、微笑む事に集中した。

「おやすみシャーロット」

くるりと踵を返して廊下を歩き、階下に降りるエドワードをシャーロットは扉を開けたまま見つめた。


ベルを鳴らすとネリーが来て、ドレスを脱がせてバスルームの準備をしてくれる。

湯船に浸かると、まだまだ少女らしい細い手足と、きれいにつんと突き出た胸が目にはいる。


エドワードは、普段通りだった。あの、ダンスの時間以外は。


湯船から、でるとネリーがタオルで拭き、夜着とガウンを着せて髪をしっかり水気をとってくれる。

「ありがとう、ネリー。もうあとは自分で出来るわ、下がって休むといいわ」

シャーロットは命じると、部屋に入り、ドレッサーの前に座ると肌の手入れと髪の手入れをしっかりとした。


美しく装うことも、義務のような物だ。

最後にお気に入りの香水を微かにつける。少し甘めのちょっぴりスパイスの効いたものだ。

お気に入りに囲まれ、気分を浮上させてからベッドにはいる。


初日こそエドワードと晩餐をとったが、シャーロットはそれから、エドワードが領地に変える前の日までほとんど合うこともなく時は過ぎた。

席を共に出来る時期は過ぎたのだ。未婚の男女は、席を共になかなか出来ない。デビュー目前の今、今後一切シャーロットにエドワードと二人きりになることは許されない。


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