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社交シーズン目前の冬。
アボット伯爵一家が、レイノルズ家を訪れた。
アルフレッド、オーガスタと共に出迎えたシャーロットは、そのまま応接間にむかう。
今日はそういう日だと、日中でも普段の昼ドレスではなく、少し改まった淡い紫のドレスを身に着けた。
伯父夫婦に続いて入ってきたエドワードが、シャーロットに微笑みかけてシャーロットも微笑んで返す。
すでに見知った間柄ではあるが、今日は正式に婚約の書類を交わし、エドワードが指輪を贈ってくれるのだ。
「シャーロット貴女が、お嫁に来てくれるのは本当にうれしいわ」
伯母がシャーロットを抱き締める。
「ありがとう伯母様」
「やぁ、シャーロット。私ももちろんうれしいよ」
続いて伯父もシャーロットを抱き締めた。
両親同士が近況を話し合う。
エドワードはシャーロットの前に歩いてくると、
「じゃあシャーロット、ちゃんとしたいから立ってくれるかな?」
と言われてシャーロットはドキリとしながら立ち上がった。
シャーロットが立ち上がるのを確認すると、エドワードは膝をついてシャーロットの左手を持った。
「レディ シャーロット・レイノルズ。君と結婚させてほしい。ずっと愛し続けると誓う」
真剣な眼差しにドキドキしながら
「はい、エドワード。わたくしと結婚してください」
と返事をした。エドワードはややホッとしたように笑うと、ダイヤモンドの指輪を嵌めて、そこにキスをした。
親の前でなければ熱いキスを交わしたに違いない。エドワードとシャーロットの視線が絡み合う。
親たちは満足そうにうなずいている。
「シャーロットは結婚式はどこでしたい?」
考えても想像がつかない。
「どこで?…うーん。」
「特に希望がなければアボットの領地の聖堂で構わないかな?」
エドワードの言葉にシャーロットはうなずいた
両親も心得て、にこにこと二人をみた。
「そうね、じゃあちょうど夏位にしましょうか?社交シーズンを早めに領地に帰って、お式がいいのじゃないかしら?」
伯母の、マーガレットがオーガスタに負けないくらいうきうきとして言った。
オーガスタとマーガレットはシャーロットのドレスの支度のことや、新居の調度類の好みなどを和気あいあいと話し出した。
「私たちは席をはずしても?」
エドワードが確認すると、
「ああ、構わないだろう。いきなさい」
伯父のカルロスが微笑んで言った。
「さて、許可が出たことだしどうする?」
エドワードがいたずらっぽく微笑む。
「スケートでもしない?」
シャーロットもこの時期したいことといえばスケートだ。幸い雪は積もるほどでもなく、難なく湖まで行けるだろう。
「じゃあ着替えてここで」
エドワードも部屋に向かいシャーロットも部屋に急いで行った。
ベルをならしてネリーを呼ぶ
「乗馬服に着替えるわ」
「かしこまりました」
今年新調した深い葡萄色の乗馬服は上品で手触りも良くて気にいっている。お揃いの帽子とケープにはふわふわの茶色のファーがついていて、かわいい上に暖かい。
階下に降りると、オーバーコートをきたエドワードが待っていた。
「じゃあいこう」
エドワードの腕に手をかけ厩舎に向かう。
今回は馬車で来たエドワードはレイノルズ家の鹿毛の馬を選び、鞍をつけた。シャーロットは愛馬に横鞍をつける。
馬丁に、隠してあるスケート靴を出してもらい鞍に乗せる。
少し馬で行くと、一年前ワルツを踊った場所につく。
エドワードはシャーロットが降りるのに両手を出し腰を持って抱き下ろしてくれる。
シャーロットは、エドワードと顔が近づきまたドキドキが高まる。
「やっと二人になれた」
エドワードの言葉にどきりとする。
「そうね、今じゃそんな機会なかなかないわ」
エドワードは、そっとシャーロットの肩を抱き寄せてこめかみにキスをした。
「だから、今は貴重な時間だ」
見つめあい微笑む。甘いムードにずっとシャーロットはぼうっとなりっぱなしだった。
靴を履き替えると、凍った氷の上に二人で同時にたった。
手を繋ぎ、ぐるりと一週滑る。
そして、一年前のようにワルツを踊り始めた。
一年前は楽しいだけだったけれど、今は愛するエドワードと密着しているとぞくぞくとして、嬉しいのと気恥ずかしいのと、ないまぜになり複雑な感覚を味わった。
躍り終えるとエドワードはシャーロットを抱き寄せて、腕に閉じ込めた。シャーロットはエドワードとキスがしたくてエドワードの顔を見上げた。
エドワードは目を伏せて口づけを与えてくれ、シャーロットはエドワードに必死に応えた。
次第に深くなるキスにシャーロットは夢中になった。
「…はぁ…エドワード。好き…愛してる…」
シャーロットはポロリと口に出した。
エドワードは嬉しそうに、耳元で「俺もだよ」と、めずらしく俺と自分の事を言った。
シャーロットはエドワードの首に腕を回して、シャーロットからキスをした。エドワードはシャーロットの後頭部に手をあてシャーロットの唇を優しく、時おり激しく貪った。
シャーロットの頬に雪があたり
どちらともなくからだを離した。
「…ああ、雪だ。帰ろうかシャーロット」
シャーロットはうなずいて靴を履きかえ、ドレスを整えて仕度をした。
エドワードは、シャーロットを抱き上げ馬に乗せる。
触れる度にどきどきし、離れると少し寂しくなる。
シャーロットは晩餐用に艶やかなモーヴピンクのドレスを着た。
指には金の細工の美しいダイヤモンドの指輪が嵌まっている。
首飾りはお気に入りの繊細な金の細工。指輪と揃いのようだった。それに気づきシャーロットは微笑んだ。
「素敵な指輪ですね、お嬢様。エドワード様はお嬢様のお好みをよくご存知でいらっしゃるのですね」
めずらしくネリーが話しかけてきた。
「そうね…」
ネリーと鏡越しににっこりとほほえみあった。
髪は、編み込んで少しだけ残した髪は緩く巻いて垂らした。ネリーはいつもシャーロットの好むようにしてくれる。
ノックされ、エドワードが入ってきた。
「失礼、迎えにきたんだ」
一礼する。濃紺のフロックコートがすらりとした体躯を包んで、貴公子らしい容姿を引き立てていた。
「ちょうど支度が終わった所なの」
シャーロットは振り向いてたちあがった。
歩みよりエドワードの腕に手をかけ、
「迎えに来てくれるなんてうれしいわ」
「大切な婚約者だからね」
と甘い笑みをうかべた。
揃ってダイニングルームに入り、隣に座る。
アデリンとエーリアルに、父からエドワードとの婚約の事が伝えられたのか
「お姉さまエドワードお兄様おめでとう!」
とアデリンとエーリアルも嬉しそうに祝いの言葉を口にした。
「ありがとうアデリン、エーリアル」
とエドワードがいいシャーロットもありがとうとつづけた。
「私がいい人と結婚出来るように頑張るからお姉さまたちは安心して幸せになってね」
アデリンはにこにこと笑っている。
意味がわかってるの…?
「わたしも!」
とエーリアルが続けていった。
シャーロットはすこし戸惑いながらうなずいた。
アルフレッドとカルロスが談笑し、エドワードが時おりそこに混じり和やかな晩餐となった。




