12
翌朝もまだ薄曇り、しとしとと雨がまだ 降っている。
シャーロットは、小広間のピアノを目指して向かった。
昨夜、父からの呼び出しはなく、シャーロットの焦燥感は平常心を侵害していて、なんとかおちつかせなければならなかった。
シャーロットが扉を開けると、窓から差す朧気な外の光を背にして立っている、すらりとした貴公子 エドワードがいた。
シャーロットはひゅっと息を飲んだ。
「来ると思っていた」
エドワードは、シャーロットの手をひき扉から室内へ導く。
ピアノの横にある椅子にシャーロットを、エドワードはピアノの丸い椅子にすわる。
繊細な旋律のピアノ練習曲。
「この曲を覚えてるよね?シャーロット」
もちろん覚えていた。幼いシャーロットがエドワードから教わった曲だった。
「忘れるわけがないわ」
微笑んで目を閉じる。
「昨夜、叔父上からシャーロットと結婚を考えてみないかと、言われた」
「…!それで、エドワードは?」
「シャーロットと話をしてから返事をしたいと伝えた」
曲が終わり、エドワードの声がそのままシャーロットの耳に届く。
エドワードからみれば扱いづらいお転婆娘のシャーロット。妹に過ぎないと言われるだろうか?
心臓が早鐘をうつ。
膝の上で手をぎゅうっとにぎる。
「シャーロット、私はずっと君を見てきた。幼い頃から必死に努力を続けて、辛いことも泣かずに我慢しながらも耐えてきた。そして今や魅力的なレディになった。私はねどうして君の横に立てないのかと運命を呪っていたよ、何の努力もせずにね」
エドワードの青い瞳とシャーロットの金の瞳がかっちりと絡み合う。
「わたくしもずっと諦めていた。ただの従兄なんだと気づかない振りをして、でももう限界だったのね。わたくしはエドワード以外の人と、結婚なんてしたくないの。エドワード以外なら、誰でもおんなじ」
シャーロットの手をエドワードは握る。
「愛してるよシャーロット。君だけを愛してる」
「エドワード!」
シャーロットは、悦びで心臓が飛び出しそうだと思った!
「私の妻になってもらえないか?」
「…!」
シャーロットはエドワードの胸に飛び込んだ。エドワードも立ち上がりシャーロットを受け止める。
「…答えは決まってる…はい、喜んで。よ…!」
エドワードは、シャーロットの顎をそっと指で仰向かせ口づけをする。柔らかなエドワードの唇はしっとりと滑らかでうっとりするような感触だった。
想いを通わせたいま、キスはシャーロットに歓喜をもたらしていた。エドワードの首に手を回して、何度も何度もエドワードと口づけを交わした。
エドワードは、シャーロットの頬に手をあてて、じっと見つめる。
「レイノルズ伯爵家の事は心配しなくてもいい。叔父上と私がちゃんと話し合う」
こくりとうなずいた。エドワードの瞳には、優しさが溢れていて、シャーロットの心を満たした。
エドワードと、結婚できる!そう思うとシャーロットは浮き立つ気持ちを感じて、今朝まであんなに鬱々としていたのに現金な物だとくすりと笑った。
「やっとわらったね?」
エドワードがおでこをくっつけて微笑みかけた。
「心配してた?」
「もちろん、叔母上とは険悪だったし、私たちと話すこともなかった。まったくシャーロットらしくないと思っていた」
「そうね、イライラしていた」
「では、叔父上にシャーロットとの結婚を申し込んでくるから、いいね?」
こくりとシャーロットはうなずいた。
ちょうど雨も上がり、雲の切れ間から光が差しはじめていた。
エドワードとシャーロットの行方を表したかのように!




