伯爵様は王宮に向かう。
「グラン、王宮に行くよー」
「え?」
私はきょとんとしているグランの腕をつかんで、そのまま馬車へと乗り込んだ。突然の事だし、同行者はワオと馬車をひく御者ぐらいだよ? 別に護衛なんていらないけどね。
その辺の魔物とか盗賊とかが襲ってきても問題ないし。ううん、なんだったらドラゴンが襲ってきたってなんとかなるよ。そもそも私は昔から貴族だったけれど、普通に単独行動して色々な場所にいっていたしね。私とグランの二人旅でも問題ない。
あ、そうだ。今度実家に養子をとったんだーって言いにいかなきゃ。
「マリアージュ、王宮に行くって……」
「サーラ様にお手紙書いたらおいでーって言われたから行くんだよ?」
「サーラ様って……」
「この国の第一王女殿下であるサーラ・ジェネット様だよ! サーラ様の美しさは天使だからね、グラン」
にこにこと私が笑いかければ、グランは何かを思案するような顔になる。うーん、美少年がやるとそういう顔もまたいいよね。涎出そうなぐらい絵になっている。
むふふ、こんなに美しいグランがサーラ様と並ぶ姿はやっぱり考えるだけでもやばいと思う。ニヤニヤする。
「……お姫様と、知り合いなの?」
「知り合いだよ! サーラ様は綺麗で優しい天使さまのごとき方なんだよーむふふっ」
サーラ様、ああ、麗しい天使であるサーラ様に久しぶりにあえるのだ。私は興奮している! 仕方ないよね、あれだけ綺麗で優しくて、天使で、可愛いサーラ様とお久しぶりにお会いできるのだから。
「……お姫様と仲良いの?」
「私はサーラ様を崇拝しているよ!」
「マリアージュ様とサーラ様は個人的に手紙のやり取りをするほどの仲だ。全く貴様はマリアージュ様が引き取った子供だというのに――」
「はい、ストップストップ! ワオはグランを責めないの!」
こっちが全く! って言いたいよ。いい加減グランを敵視するのやめよーよ。もう、ワオには困ったものだ。
一々突っかかるのをやめてほしいものだけれども、こればかりはグラン自身がワオに認められないとどうしようもない気がする。そもそもワオは認めている人間以外には結構きついこともいう人間だし。
「ふふ、グラン。サーラ様は私が引き取った子供連れていきますっていったらすぐに返信をくれたのよー。だから、これから王宮でサーラ様にグランを紹介するからね」
にこにこと笑ってそういえば、グランが固まる。そんなグランを見ながら私は続ける。
「あ、でも多分サーラ様以外にも会わなきゃになるかな。陛下とかも私が育てている少年ってことで関心あるみたいだからさー」
まったく、私はサーラ様とだけグランを会せるつもりだったし、正直グランとサーラ様が出会って私の楽園を形成してくれればそれだけで十分なんだけれども、多分王宮いったら色々な人がグランに会いたいっていうと思う。
ほぼ珍獣扱いで。というか、私の育てている子供ってことでグランは噂の的になっているみたいだからね。
ふふふ、グランをはじめてみる者どもよー、グランの美しさにひれ伏すがよいとかそういう気分だよ。てか、ひれ伏してもいいと思うんだよね。グランの綺麗さはやばいから。サーラ様と並べるほどとか相当だからね。
「……マリアージュって、ただの伯爵ではないの?」
「むふふ、私ちょっと有名人なんだよー」
「マリアージュ様はこのジェネット王国では知らぬ人のいないお方です。お前はその偉大さをもう少し理解――」
「もう、そういうのはいいってばー、ワオ。大体私はそんな偉大じゃないよ!」
そういう風に評価してくれることは正直嬉しいけどね、過大評価されている気がしてならないよ。私ってばそこまで偉大ではないと自分で思っている。
嬉しいけどね、嬉しいんだけどね、それでも過剰にそういわれるのは恥ずかしいんだよー。
「グラン、サーラ様はとても美しい方なのよ。もう天使と紛うほどに優しくて、この国の国宝いえ、この世界の宝ともいえるべく方なの! あぁ、サーラ様のあの天使のような声を久しぶりに聞くことができるなんてもう……っ」
「……マリアージュって美しいもの好き?」
「ええ、大好きよ!」
「……俺を養子にした理由ってもしかして」
「ふふ、綺麗な子を私は育てたかったんだよ!」
ぶっちゃけたらなんだかグランがちょっと悲しそうな顔をした。くぅう、悲しそうな顔をしていてもなんて目の保養!
でも悲しい顔見るより楽しい顔のほうが好きなのよ。
「むふふ、そんな悲しそうな顔しないで。グランほどきれいな子はめったにいないんだから。それに魔法適正も他に例を見ないレベルだしね」
にこにこと笑って、グランの頭を安心させるようになでる。少し嬉しそうな顔をして、次の瞬間、手を払われた。
子供扱いされるのがいやだったみたい。でもそんな顔も可愛いなぁと思える。
なんだろう、美少年美少女のやることならある程度なら許容できる気がする、私は。
「ねぇ、グラン。サーラ様についてはどれぐらい知っている?」
「……お姫様ってことぐらいしか」
「ふふ、なら私が敬愛しているサーラ様についてグランに教えてあげる。王宮につくまでまだ時間あるからね」
私はそういって、サーラ様の話をしはじめた。
結局移動時間はすべてサーラ様の話で終わった。