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伯爵様は魔法を行使する。

 「魔法っていうのは身体の中にある魔力を集めて、そして詠唱と共にどどんっと放出すれば出来るよ!」

 「その説明じゃ誰もわかりません、マリアージュ様」

 「……マリアージュ、それじゃわかんない」

 私がドヤ顔で自信満々に発した言葉は、即座に否定された。

 現在、私は土と光属性を持つ元部下であるシトラスと共にグランに魔法を教えようとしていたわけだけれども、私の言葉に二人ともそれじゃわからないといった。

 え、でも魔法なんて感覚で使えるものだよ? 何となくこれくらいでいいかなってくらいの魔力を集めて、行使したい魔法をばばって使えば出来るものじゃないの? と、本心からの言葉を口にしたら全力で呆れた顔をされた。

 「それはマリアージュ様だけの常識です。グラン様、マリアージュ様は非常識の塊な方ですので、この方を参考にしてはなりませんよ」

 「……マリアージュってそんなに凄いの?」

 グランが問いかければ、シトラスの目が見開かれた。

 「まさか、この方がどなたかご存じなく貴方は養子をしているのですか? ああ、これはワオが怒るわけです。この方は『炎――」

 「ハイ、スットープ! そういう話は私の居ない所でして! っていうか、その通り名的なものは好きじゃないからやめてってば」

 思わず止めたのも仕方がないと思う。私は『炎剣帝』なんて物騒な呼び名をグランに知られるのは嫌である。そもそも私は可愛らしさも欠片もないその名前が好きではないからあまり目の前でいってほしくない。

 「……そうですか。ならいいません。グラン様」

 頷いたシトラスはグランに向かって話しかける。

 「マリアージュ様がどなたかはやめに知る事をお勧めします。そしてこの方の養子になったのですからそれなりに結果を出してもらわなければ、私を含むこの方を尊敬する輩は貴方を養子としては認めない事でしょう」

 シトラスは見た目は草食系でとてもおとなしく見える。薄い茶色の髪で、眼鏡をかけていて、いかにも文官そうな雰囲気を醸し出しているけれど、実際は私の部下として戦乱をかけたというのだから人は見かけで判断が出来ないものである。

 それにしても先ほどまで優しく微笑んでいたシトラスがいきなりグランに向かって厳しい事をいったから、私のグランがびくっとした顔をしている。うん、そういう顔をしていても可愛いよね!

 「……はい」

 グランはそれだけ返事を返す。そのあとは普通に私とシトラスでグランに魔法を教えた。最も私が教えようとしても「マリアージュ様は例外です」なんて言われ続けたわけだけど。

 うー、グランに魔法を教えて「マリアージュ、凄い」的な尊敬の目で見られたかったのに、どちらかというと呆れられているよ。なんか嫌だよ、私は!

 「シトラスさん、ありがとうございます。とてもわかりやすかったです」

 魔法の授業が終わった後、グランは丁寧にお礼をいっていた。そのお礼を私はもらいたかったのに! シトラスが羨ましい。私は感覚で魔法を使っていて、魔法を放つためにどういう努力が必要かとかそういう事は全然わからないんだよ。あー、教えるのに向いていないのかもしれないって少しへこむ。

 「シトラスさんは、マリアージュのなんなの?」

 「私は、マリアージュ様の元部下ですよ」

 最後にグランが問いかけた言葉に、シトラスは笑みを浮かべてそう答えるのだった。


 そして魔法の授業は終わったんだけど、シトラスが帰った後に屋敷に張り巡らせている魔力が、侵入者が居るってことを伝えてくれたの。



 「グラン、今から私が凄いって事見せてあげるからね!」

 シトラスの授業が終わって、屋敷の中を歩く中で私は振り返ってそんな言葉を放った。グランはそれを聞いて何を言っているかわからないといった表情を浮かべる。わからないのが当たり前なんだから、仕方がない。

 敵を察知する技能なんてまだ教え込んでいないのだから。

 窓ガラスが割れる。私の歩く通路にあるそれが。破片が飛び散る。だけどそれは私とグランにはかからない。

 一瞬にして私が構築した魔法が、闇属性の魔力障壁が出現し、それははじかれる。

 窓から現れたのは何人かの、顔を隠した不審者たちだった。

 私は、戦争で活躍した。戦争で活躍したという事は、それだけ人を殺したということ。それだけ、敵国を恐怖に陥れたということ。――――私を疎む存在というのは、居る。

 刺客は、私のグランを狙っている。私の人質にするために。

 だけどそんなこと私がさせるわけない。情報を集めるためには、たった一人だけが生きていればいい。気を抜いて、甘い考えでグランが傷つけられるなんて絶対に嫌だったから。

 だから私は、魔法を行使した。

 詠唱なんていらない。慣れ親しんだ、使い慣れた炎をただ出現させて、操るだけ。それで事足りる。

 一番弱そうな一人に向かってとびかかる。あとの刺客はそうしながらも練った魔力で出現させた炎に飲まれた。

 苦しむ暇もなく、一瞬で燃え上がる。命が失われる。たったそれだけ。それだけで終わる。

 捕まえた一人を気絶させて、「私凄いでしょう?」という思いでグランの方を振り返る。

 そうして私を見るグランの目を見て、私は少し悲しくなった。だってそこには怯えが確かにあったから。

 でもグランの前で人を殺したのは、覚悟も必要だと思ったから。私の養子であるという覚悟が居る。私の養子であるという事は、グランだって狙われてしまうということになる。

 「グラン」

 「……え、あ」

 手を伸ばすと、グランが距離を置いた。悲しいけれど、殺されるかもと思われているのかもしれない。私はそれだけの力を持っているから。

 「私が、怖い?」

 「え、っと」

 「まぁ、いいわ」

 私はそれだけ言って、騎士団の人々を呼んで、処理をさせた。使用人に処理をさせるのは、憚れるから騎士団と私だけでやった。

 生きている一人の刺客に対する尋問は、ワオにやってもらう事にした。

 私はグランに怯えられて悲しいなーと思いながらもへこんだまま自分の部屋へと戻るのであった。


 

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