伯爵様、不貞腐れる。
私はとっても不機嫌だ。
目の前の光景も見ながらも、思わず不貞腐れてしまう。
グランが新米兵士と打ち合いをしている。私もアレしたい! って思ってたのに、うちの私兵の騎士団長に「マリアージュ様とグラン様では力の差がありすぎます」って言われて止められた。
もー、確かにそうかもしれないけれど、私はグランと打ち合いして、教え込みたかったのに。ちなみに騎士団長っていうのは戦争中の私の部下みたいな存在。サーラ様が一人で動くのは危険だっていって、私に小隊を預けてくれてたの。
『マリアージュについていけるような人選にしたわ』ってサーラ様はその時笑っていて、なんかもう私のために選んでくれたんだって思うだけで悶絶するかと思ったわ。
ああ、サーラ様と私のグランが並んで話している姿とか想像するだけでもう涎でそう。女神ともあがめられるべきサーラ様と、驚くほどに美しいグランがしゃべるとかなんていう私にとって幸福な光景! のちに絶対に実現させてみせる。
「マリアージュ様」
妄想にふけっていたら、例の私の部下であるワオに話しかけられた。元々ワオは私の実家よりも格上の貴族の息子なのだが、私に対して妙な崇拝でも抱いているのか年下の私にいつもこうして敬語で敬意をもって接してくる。
「んー、なーに」
無気力にワオの方へと視線を向けてそんな言葉を放つ。ワオはこんなにだらけた私の姿を見ても幻滅などしていないのか相変わらずの態度だ。
「グラン様は、マリアージュ様の養子としてはまだ不適格です」
「……あー、まだいってるの。ワオ」
「はい。《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様」
わざと私の呼び名と正式名称を口にして、ワオはいう。
「貴方様はこの国の英雄。この国……いえ、この大陸最強の魔法剣士」
「いやー、それは言い過ぎ」
なんなんだろうね? ワオは私を過大評価しすぎだと思うよ、凄く。確かに私には戦うための才能があって、サーラ様のためにと武功を上げまくってたからそういう過大評価しちゃってるんだろうと思うけれどもさ。
相変わらず無気力に、私もグランの手ほどきしたいよーって目でグランと新米騎士の方を見てる。やっぱり剣を元々持った事がないのもあって、新米騎士相手でもグランは大変そうだ。まぁ、最初は誰でもそんなもんだよね。
「貴方様は、幼少のころよりその才能を開花させてきたと聞きます」
「……確かにまぁ、私はそういう才能だけはあったのか昔から魔物殺すとかはできてたけど、それが?」
「そんなマリアージュ様の養子があんな……、確かに魔法の才能はあるようですが、剣を振り回すのがやっとの男などとは……不適格です」
「あのね、ワオ、子供に何を求めてるの? 確かに私は、うん、本当にね、私限定でね、グランぐらいのころには剣振り回して遊んでたけどさ、私は規格外だよ? 当時自覚はなかったけれど、あらゆる人に規格外って言われてる私だよ? そんな私と比べるなんてグランが可哀想でしょう」
なんだろう、私は普通なつもりだった。ちょっと好き勝手はしているけれども、普通な子爵令嬢のつもりだった。お父様もお母様も私がお転婆していてもあらあらと笑っているだけで、幾つか上のお兄様は私がやることなすことに呆れていただけであった。
なんせ、田舎の貧乏貴族だったから生活も平民と対して変わらなかった。貴族としてのパーティーには、私は社交界デビューする前だったし、貴族のマナーなどは家族にならっていたけれど私の世界は狭かった。誰も咎める人は居ない状況で、好き勝手に生きていた。気づけば魔法を使えるようになり、剣も出来るようになった。ただ見よう見まねで遊んでいたらいつの間にか覚えた。
サーラ様に出会ったのも放浪して遊んでた時で、戦争に介入したものの英雄とか呼ばれるとか思っていなかった。なのになんかやれるなーと思ってやってみたら、できたとかそんな感じ。そして結果『炎剣帝』とか呼ばれて、爵位までもらって。
あと私の生家だからって、実家は色々と活性化しているらしい。両親に感謝された。
本当に私は例外らしいから、私と比べるなんてグランが可哀想だと思う。
「でも……」
「もう、でもじゃないの。私が養子にしたいと望んで、養子にしたんだから文句なんて言わせないわ」
これ以上いうのは許さないと睨めば、ワオは黙る。全く……、私にそういう憧れを抱いているのは別に嬉しいけれど、不適格だなんてそんなこと簡単に決めるのはやめてほしい。私が気に入って、私が養子にしたいと望んで、そうして養子にしたのがグランなんだ。グランがいいって思った。寧ろグランしか嫌だなって思って、だからこそグランを養子にした。
そんなグランの事で文句を言うなんて許さない。私は自分のやりたいように生きる。やりたいように行動する。もう、そう思っているのに実力差がありすぎるから模擬戦してはいけないなんて、何だか悲しいわ。
まぁ、確かに私がやったらグランのやる気そいじゃうかもしれないから仕方ないかもだけどさー。と、ちょっと不貞腐れてしまう。
でもいいや、魔法は教えるもん。私が手取り足取り教える。グランみたいに全属性は扱えないけれど、私もそれなりに多くの属性使えるから教えられるしね。ただ土と光だけは別に教えられる人を探さなきゃなぁ、なんて考えながらも私は模擬戦をするグランを見るのであった。