伯爵様、捕まる。
「ねぇ、マリアージュ、俺結婚したいんだ」
戦争を終結させて、グランと共に家へと帰宅した。そうして「話がある」と言っていたその内容を問いただせば、そんな事を言われた。
私の可愛いグランが結婚したいなどと口にしたことに私はそれはもう驚いた。そしてなぜかフロネア家に仕える侍女とか執事とか文官たちがこちらをニヤニヤしてみていてなんなんだと不思議に思った。
「グラン、結婚したい相手がいるの? それは誰?」
とりあえず、私はそれを問いかけた。
だってグランの周りに私が調べた限りそういう女の子っていなかったのよね。誰だろう。ってか、結婚したいんだって、相手の子の了承はとれているのかしら?
私のグランが女の子に無理強いをするとかそんなことは絶対にありえないと断言できるんだけど、それでも少し普段のグランを見ていたらそんな疑問がわいてきたの。
でも突然今まで結婚する素振りとかなくて、そのことが心配になっていたような子が結婚するとか言い出したら相手は誰!? ってならない?
別にグランが選んだ子ならどんな子だっていいとは思っているけれどもさ。
でも可愛い子かしら、綺麗な子かしら、それともちょっとぽっちゃりしているけれど朗らかに笑う子とか? 誰かしら。でもこの戦争で私と一緒に駆け回って、私の《炎剣帝》と対になるような《光剣》って呼び名がグランにもつけられたし、この国の女性だったら英雄に求婚されたらきっと断らないわ。
「マリアージュ」
「ん?」
「俺が結婚したいのはマリアージュだよ」
「はい?」
なんだかよくわからない言葉が聞こえてきた気がする。
「えーと、グラン今なんていったの?」
「だから、俺が結婚したいのはマリアージュだっていってるの」
「……それは、どちらのマリアージュさん?」
「俺の目の前にいるマリアージュ」
なんてことをグランが言い出してしまったものだから、私はそれはもう混乱した。だって何言ってるのってなるじゃんか。
なんでグランが私と結婚したいとか理解できない事をいっているの!? え、え、って流石の私でも大混乱である。
「あのね、マリアージュ、俺はマリアージュの事好きだよ」
そしてさ、あのね、何故ナチュラルにそんな告白をしはじめているの。ここにはほかにも沢山人がいます。
侍女、執事、文官とかその辺の人たちが野次馬になっているよ?
「えーっと、それはなんの冗談なの? グラン」
「冗談じゃないから。俺が好きなのはマリアージュなの。美しい少年を育てたいとか不純な動機で俺を引き取った変態で、だけど誰よりも強くて自分ってものを持っていて、俺の事を育ててくれた。
俺は、そんなマリアージュの事が好きなんだ」
数年前から私の身長をとっくに越してしまっているグランが私を見下ろしていた。熱のこもった瞳で、こちらを見ていた。それにたじろぐ。
なんでグランが私をそんな目で見ているのだろうかと。
だっておかしいじゃないかと。混乱してならない。
私はグランを引き取って育てた。美少年を育ててみたいなどという周りに変態だって言われるような動機でだ。
それをグランも知っている。グランの顔を見てニヤニヤしてたりも結構していた。それに私はグランよりも大分年上だし。
そんな私にそんな思いをグランが向けてくるだなんて色々とおかしい。絶対嘘だとしか思えない。
なのに、グランは熱のこもった真剣な目でこちらを見ている。
「ねぇ、マリアージュ」
「は、はい」
「俺ね、本気だよ。本気だからそんな疑いの目で俺を見るのやめない?」
「いや、でも……」
「でもじゃなくて、俺が好きなのはマリアージュなの。で、俺はマリアージュと結婚したいの」
グランはまっすぐにこちらを見ていった。迷いのない目だ。
「それにマリアージュの夢っていつか麗しい人と結婚して子供を産んで美少年と美少女を育てるっていうのでしょ? 俺と結婚したらそれかなうじゃんか。俺の見た目マリアージュの好みなんでしょ?」
どこからその話を聞いてきたんだろうか。それは私の昔の夢だ。確かにそういう夢を抱いてた。でもグランを引き取る時には、私みたいな《炎剣帝》を奥さんにしようなんていう存在はいないってことであきらめた。あきらめたからグランを引き取った。
で、グランがいつか結婚してその子供に慕われる生活を夢見ていたというのに。
現実は私がグランに求婚されているとか、どうしたらいいかわからない。
「ねぇ、マリアージュ、俺の事嫌い?」
「そんなわけないじゃない!」
「俺の願い、叶えてくれないの?」
「え、そ、それは……って、というか、私はグランからしてみればおばさんじゃんか」
「マリアージュは全然おばさんじゃないから。というか、おばさんでもいいから結婚してマリアージュ」
「え、えっと……」
「ねぇ、お願い、マリアージュ」
戸惑っていたら懇願する目で見られた。可愛い。至福。って、そんな目で見られたら断れないよー。うるうるしているよ。断ったらどうなるの。この綺麗な顔が悲しそうに歪むの? あ、無理無理無理。私はグランには笑顔でいてほしいもん。
「そんな顔しないで! 私でよかったら結婚でもなんでもするから!」
と思わずいってしまったのは、グランに見つめられて、懇願されて、お願いをかなえなきゃと思ったからだ。
「うん、ありがとう。マリアージュ。じゃあ、行こうか」
「へ?」
先ほどまでうるうるしていたのに、それが一瞬で消えた。良い笑顔を浮かべているグランに気づけば抱えられた。
おおう? 先ほどまでのは演技なのか! 私のグランは小悪魔だよ! とか思っている間に寝室に連れ込まれるのであった。




