伯爵様はかく思う。
私の名前はマリアージュ・フロネア。
ジェネット王国の第一王女殿下であられる、サーラ・ジェネット様のためにと戦乱をかけていたら、伯爵位を承りました。
この王国はほんの数か月前まで戦争をしていました。隣国であるガンラ帝国が王国で見つかった鉱山を狙い、攻めてきたのです。私はその戦争に子供ながらに参加いたしました。それもこれも、その鉱山のあった領地とガンラ帝国の境に我が生家の領地があったことが問題なのですが、その話はおいておくとします。
そもそもの話、私がなぜ戦乱をかけていたかといえば、全てはサーラ様のためでありました。サーラ様は美しい方です。絶世の美少女、その言葉がぴったりと似あう方であります。
私の地味で目立たない茶色の髪とは比較するのも烏滸がましいほどの美しい銀の髪。腰まで伸びるその髪は太陽の光に反射してキラキラと輝くのです。艶のあるその髪は見ているだけでほぅと息をついてしまいそうなほどなのです。
美しいのはその髪だけではありません。目の色は緋色で、見つめられるだけで魅了されてしまいそうなほどに綺麗です。
少し吊り上った目も、愛らしい桃色の唇も、驚くほどに小さな顔も、雪のように白い肌も――すべてが完成された美しさといいますが、とにかく美しいのです。
私は、美しいものが好きです。
サーラ様は現在十三歳。私とサーラ様がであったのは、ほんの三年ほど前、戦争が始まる前の事でした。
私は当時十二歳でしたが、その頃の私の趣味は散歩でした。自然の美しさを見るのも好きなのです。だから、色々な場所を渡り歩いて美しい場所を探して遊んでいました。大体一週間から一か月ほどの期間を歩き回って、野宿して遊ぶのが私の趣味だったのです。
私は美しい湖を見つけたのです。透き通るような水が、その場に咲き誇る花々や存在する木々を映し出していて、それはもう美しかった。
そこで、私は天使を見たのです。
天使は湖の側に腰かけていました。周りには護衛と思しき、騎士の方がいらっしゃいましたが、天使と見目麗しい騎士がその場に存在するだけでももう幸せな光景でした。
まぁ、そこで天使を狙う不届きものがおり、私がとっさにそれを対処したのが天使――サーラ様と私の始まりだったのです。
サーラ様はその時、大変驚かれていたようです。まぁ、木の上から私が突然飛び降りたからですけれども。でもサーラ様の美しい顔を暗器で狙うなど見過ごせる事では決してなかったのです。というか、そんなやつ『サーラ様の美しい顔をめでる会』の会長である私が許しません。
戦争が起こった時ですね、サーラ様が大変悲しんでおられたのですよ。美しい顔を悲しそうにゆがめて、それを見て私は天使に笑顔を浮かべてもらうためにはどうしたらいいか考えたのです。考えた結果、「そうだ、戦争をおさめればいいんだ」と思い立ったわけなのです。
その結果、貴族となり、領地を与えられたのはいいんですが、此処王都から少し離れているのですよ。美しいサーラ様が時々しか見れません。少し、それが嫌だなとか思っている私なのです。
というか、私は十五歳で、貴族としては結婚していてもおかしくない年なのですが、残念ながら私に求婚者は居ません。
未婚の伯爵だなんて、食いつく男はいそうと思いがちかもしれませんが、私は戦場でやりすぎたのですよね。十三歳のころには戦場を駆け巡り、つい先日戦争がなくなるまで血なまぐさい日常を送っていました。しかも、私はそういう戦う才能があったようで、武功を立てまくりました。
時には帝国の将軍と一騎打ちをして負かし、
時には戦場に舞い込んできた野生のドラゴンを両断し、
時には私の最も得意とする炎の魔法でその場を焼き払い、
時には敵の要塞に侵入し秘密裏に敵側のトップと交渉したり、
時には暗殺者を返り討ちにし―――……。
あげたらきりがありません。そしてついたあだ名が『炎剣帝』とか、なんだそれですよ。そもそも武功を立てた女性は今までにも歴史の中で数少なくともいます。でもそういう方へのあだ名は『姫』とかついているのですよ! なんで私には女要素が欠片もないんでしょうね? と正直何とも言えない気持ちになったものです。
まぁ、それはともかくとしてです。私は結婚は出来ないと思うのですよ。私なんかもらってくれる方もいないでしょうし、それに政略結婚とかも嫌ですし。なら、養子をとるしかないでしょう。
サーラ様という美少女が近くにおられるのですから、今度は美少年を! というのが私の要望なのです。
というか、私は幼いころから美しい少年少女を育てたいと夢見ておりました。いつか麗しい人と結婚して美しい子供を育てたいなどという不純な動機ですが。というか、美少女や美少年に「お母さん」とか呼ばれた日にはいろんな意味で死ねると思うのですよ。
「というわけで、理想の美少―――養子を探しに行くわ!」
孤児院や奴隷市を見て回るの。理想の美少年を求めて! 「お母さん」って呼んでもらいたい。いや、「お姉ちゃん」でも可だけど。てか、なんでもいいよ!