土曜日の朝は気分は解放的
マサキは派遣生活で、気のあった仲間は少なかった。やはり、自分と同類のサラリーマン生活を経験した者同士が自然と集まった。根っからのフリーターとはどうも懇意にはなれなかった。マサキはここで、弁護士の卵の田山と、元会社社長の下條とは、特に昵懇の仲となり、彼等中心に10人位の集団が結成され、ボスはもう60にも届く下條で、マサキと田山がその番頭的存在であった。
夜勤明けの土曜日の朝は何もなく、気分が解放的になり、よく皆で築地に繰り出した。下條は食い道楽で、リーズナブルな料金で旨いお店を案内してくれた。そこで、派遣生活脱却の道のりを説いて、皆は聞き入っていた。下條もダブルウワークだけでなく、更に起業の準備に入っていた。昔上場の実績ある下條の言葉は説得力があり、いつの日にか、投資の勉強会となっていた。
下條自身、FX取引ではかなりの利益をもたらしていたのだ。
何故か、仲間たちは、夜勤の職場では疎まれていた。何故なら、社会常識や決算書の読み方やその他必要知識は、エリアマネージャーやスーパーバイザ-らとはレベルが違っていたから。彼等には面白くない存在であったのだろう。だから、僅かなタイミングの一瞬の居眠りの機会を見つけては勝ち誇ったように、わめき散らすのが常であった。
しかし、下條は、我関せず。言わすだけ言わせておけばいいと、相手にはしなかったのだ。