寝るんじゃない
「おい、寝るんじゃないよ。」
いきなり、マサキは頭を叩かれた。
「勤務態度悪いと首だからな!」
SVと呼ばれたスーパーバイザ-は、すぐ怒鳴る事で有名な男だ。エリアマネージャーと称する女性キャリアも、すぐに駆けつけ、「おまえ、また寝たね」と大声で周囲に聞こえるようにわめき散らす。マサキは確かに眠気に誘われたが、完全に眠った訳ではない。
ここは、東京ベイの一画のビル街で、新日本電力の原子力発電所の放射能事故の損害賠償の補償業務を派遣会社が請け負い、マサキはその一員として、夜9時~朝6時までの夜勤仕事を日々勤めていた。被害者から請求書が届き、その内容に不備が無いかを審査する業務である。農業や中小法人や、一般人等細かく細分化されて、それぞれの審査グループがある。請求書の数は大変な量ではあるが、タイミング的に全く審査の無い日々も時折あったのだ。まさに、そんな夜は、何もすることないのだが、SVやエリアマネージャーの役割は、眠ってるスタッフを見つけて血祭りにすることであった。そういう仕事のルールを守った者が、この閉鎖的空間では、所謂出世してゆく。要するに時給が上がって行く訳である。だから、上司たちは、血祭りゲームに夢中になる。