ズルい人ね…【夏の終わりに】
私に 逢う時には、必ず
左手の指輪を 外すのね…。
貴方のそんな優しさを、
今迄、何度 見て来たかしら…。
本当は、優しさなんかじゃ無くて、
奥様に対する後ろめたさなのよね…。
ずっと前から、気付いてたわ…。
でも、
もう いいの…。
貴方と知り合ってから、
もう三回目の夏が、来てしまったのね…。
初めて、貴方に抱かれた時には、
一夜限りの関係で、
部屋を出たら終わりだと思ってた。
貴方の無愛想な態度から、
もう二度と逢う事なんて無いと思ってた。
貴方から届いたメールを読んだ時、
都合の良い女になってる事なんて、解ってた。
たった一人で生きる女の寂しさに、
負けてる事も解ってた…。
いつの日か、貴方に捨てられるだろうと何度も考えてた三年間だったわ。
こんなにも二人の関係が続くなんて、
思ってもみなかった。
妻子ある人を好きになったのは、私の罪‥。
奥様とお子さんを、裏切ってるのは、貴方の罪‥。
そんな事は、二人が出逢った時から解っていたなんて、平気な顔で言わないで…。
ズルい人ね…。
貴方と出逢った頃は、
どちらの罪が重いなんて、どうでも良いって思ってた…。
時々逢えて 二人だけの時間を過ごせれば良いと思ってた。
抱かれる度に ダメだと解っていても
貴方の事を次第に愛していく自分が怖かった。
私を抱く度に、愛に傾く貴方の気持ちを、嬉しいと感じてた。
いつも貴方に逢う時は、
二つの気持ちがない交ぜで、
なのに身体は、貴方を求めてた…。
貴方の身体の熱さを、
感じる度に、
崩れ落ちそうな気持ちから、逃げていた…。
後悔なんて言葉とは、
まるで無関係の時間が、 待ち遠しくて
今度は、いつ逢えるのかしら、
どれだけの時間を、貴方と過ごせるのかしら、
一日に何度も 携帯を開いては、
貴方からのメールを探したわ。
一人の夜の寂しさに、打ちひしがれて
貴方宛てのメールを打っては消して、
書いては、送信出来なくて、
眠れ無いまま、朝を迎えた事もあった…。
私からは連絡しないって約束を、何度も破ろうとしたわ。
貴方に嫌われるのが、怖くて、結局 何も出来なかった…。
私が貴方に、夢中になればなるほど、 連れない素振りで交わすのね…。
ズルい人ね…。
貴方だけじゃ無い。
男はみんなズルいのよね…。
二年目の冬
クリスマスの翌日、
私から 別れ話をした時に、
オレは、どうしたらいい?
オレに、どうして欲しい?
貴方は、何度も私に問いかけてきたけど…。
本当は、
家庭を捨てて 私と一緒に暮らして欲しい。
そう言って貴方の胸に飛び込んで行きたかった…。
貴方に強く抱きしめて欲しかった…。
でも…、
そんな事、言える訳無いじゃない…。
飛び込んで行ける訳無いじゃない…。
貴方の家庭を壊してまで、
幸せになんかなりたく無いわ…。
幸せになんかなれ無いわ…。
貴方の、
どうしたらいい?
どうして欲しい?
その言葉が、どれだけ私の心を、締め付けてるか‥
どれだけ私を苦しくさせてるか‥
貴方は、全然 気付いて無いのね…。
この先、こんな関係を続けても
きっと貴方は気付いてはくれないでしょうね…。
私の本当の気持ちなんか、考えてはくれないでしょうね…。
いつか終わる関係に、
貴方を愛する事に、
私…、
疲れたみたい…。
ううん、違うの…、
嫌いになった訳じゃ無いの…。
私から、
お別れしなければ、
この関係は、終わらないの…。
二人の関係は、
決してendlessじゃ無いのよ…。
私が、
periodを打たなきゃダメなの…。
だって
貴方は、
ズルい人だから…。
この夏が終わるまでに
私…、
私…、
この街を、出て行きます…。
海の見えない街で、
独りで 暮らします…。
半年 悩んだ私の決断です…。
私の事を、
私の事を、少しでも愛しているのなら
何も云わず、解ってください…。
私の事を、少しでも愛しているのなら
この三年の月日を、早く忘れてください…。
私の事を、少しでも愛しているのなら
貴方は、
貴方は、
貴方の家庭だけを、
愛してください…。
勝手だけど、
最後に一つだけ、
わがまま聞いてもらえますか…?
お願いだから
今日は、送らないで下さい…。
一人で、帰りたいの…。
雨に濡れて帰りたいの…。
あの灯台のある防波堤から、
二人で、海を眺めた防波堤から、
三年分の思い出を、海に流します…。
携帯を海に 投げます…。
貴方からの連絡が、
もう届かないように…。
ゴメンナサイ…
貴方…。
サヨナラ…
貴方…。
夏の雨に濡れながら、
涙も、悲しみも流れてしまえば良いのに…。
春 野風
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