095 魔法のメガネ
「あれ。メガネ何処に置いたっけ……」
朝一番、私は布団から出るなり、辺りを見回した。普段だったら布団の横、机の上、だけども探しても見つからない。
「お母さん! 私のメガネ知らない?」
ぼやける視界の中で、私は居間へと向かう。
「ええ? 知らないわよ。昨日、寝る前はちゃんと付けてたじゃない」
「そうなんだけど……ああ、もうどうしよう! 今日試験なんだよ?」
私は半ばパニック状態で、居間をじたばたと回る。メガネはたった一つしかなく、コンタクトも作っていない。
「うるさいわね。ちゃんと探したの?」
「探したよ、見える範囲は……」
「どうしたんだ?」
その時、奥からやって来たのは、同居しているおじいちゃんだ。
「おじいちゃん。私のメガネ知らない?」
「知らないよ」
「わあ、どうしよう! 試験なんだってばー!」
「そりゃあ大変だ。よし、おじいちゃんのメガネを貸そう」
おじいちゃんは胸を叩いて、かけていたメガネを差し出す。
「ええ? おじいちゃんのメガネ?」
「ないよりましだろう」
「でも、他人のメガネかけると良くないって言うよね……」
そう言いながら、私はおじいちゃんのメガネをかける。すると、思いのほか見やすかった。
「あ、見える!」
「よかったな。これで試験が受けられる」
「ありがとう。じゃあ、これ借りてくね。でも、おじいちゃんと同じくらいの視力とは……私ってば……」
私は苦笑しながらも、慌てて学校へと向かっていった。
学校では早速試験が始まった。私は試験問題をめくり、ハッとする。
(答えが……)
答案用紙には、答えが浮かんで見える。私はメガネを外し、目を擦って裸眼で見つめた。だが、そこに答えはない。
(まさか、このおじいちゃんのメガネが?!)
メガネを掛け直し、答案用紙を見ると、やはり答えが浮かんで見えた。
私はいけないと思いつつも、その答えを必死に書いた。
学校から帰るなり、私はおじいちゃんに駆け寄る。
「おじいちゃん! これ、魔法のメガネなの?!」
私の言葉に、おじいちゃんは笑う。
「何を言ってるんだ。でもまあ、おじいちゃんが愛用している物だから、そうなのかもねえ」
「本当、凄いよ!」
私は感動しながら、おじいちゃんのメガネをまた借りようと思った。
ちなみに私のメガネは、その夜すぐに見つかった。ちゃんと机の上にあったのに、気付かなかっただけだったのだ。
それから数日後、試験の答案が返された。
結果は……四十点! いつもより悪い。
「今回はどうしたんだ? フランスもオランダも普通のカタカナでいいんだぞ。漢字だったし、間違えてたし……おまえはいくつなんだ」
先生もその答案に首を捻り、苦笑していた。
確かにおじいちゃんのメガネは魔法のメガネだったけれど、その知識はおじいちゃんそのものであり、学生時代が遠い昔のおじいちゃんには、私の試験は難しかったのかもしれない……。
でも、その不思議なメガネはおじいちゃんの愛情たっぷりで、私は何度か借りている。