091 八方美人ですが、なにか?
昔から、私は要領が良い。
よく気がつく、勉強出来る、華がある、スタイルいい。
そんなことを言われるけど、特に全身ケアしているわけでもないし、勉強だって中くらい。それでも見た目と態度で、人は勝手に高評価してくれる。
「顔洗って出直してこい!」
会社に罵声が響く。また部長の雷が落ちた。
私より一年後輩の男の子が、肩を落としてトイレへと駆け込んでいった。
「元気出してください。部長、新しいこととか苦手だから、まだついてこられないんですよ。もう少し練り直したら、きっとわかってくれますって」
後輩の男の子がトイレから戻るなり、私は淹れたてのコーヒーを彼に差し出した。
「ありがとうございます……でも、自信失くしちゃいますよね」
「なに言ってるんですか。課長はいい案だって言ってましたし、部長がわからずやだっただけです。次に向けて切り替えて頑張りましょう!」
「はい! なんか元気出てきました。ありがとう!」
ちょろいもんだ、なんて少し思ったけれど、私はコーヒーを持って、機嫌の悪い部長のもとへ行く。
「部長。コーヒー入りました」
「ああ、ありがとう。まったく、新人は何を考えているのか……」
ぶつぶつと言っている部長に、私は苦笑する。
「まあ、そうですよね……でも、彼も一生懸命で周りが見えてないだけみたいです。もう少し冷静になったら、部長の声も届きますよ」
「そうかねえ」
「はい。部長の雷は愛情だって、みんな知ってるんですから」
「そうか。さすが君、わかっているね!」
こんな簡単な会社はうちだけかもしれないが、私はこれで世渡りしている。
八方美人と言われても、それが何か問題あります?
転ばず沈まず、うまく泳げ。