088 僕と勇者と姫君と
僕はただの村人で、毎日小さな村で魔術を売っているのです。この商売は、僕の先祖から代々続くものでございます。
でも、ここ数年は魔物が減り、勇者も減り続けているため、インチキなマジシャンなんかが、僕の魔術を買っていきます。
ガランゴロローーーン。と、大きな鈴の音が鳴り、僕はテレビを見ていた店の奥から、店へと顔を出しました。
「すごい音だな、店主」
ドアに括りつけられたドアベルに、客と見られる男性が、苦笑して言いました。重そうな武具を身にまとったその風貌からして、インチキなマジシャンではない。久しぶりの勇者のお客だと、僕は息巻きました。
そしてまた、男性の傍らには、美しい女性が立っています。
「お客さん、何をお探しですか?」
「どんな魔術を売っている? 強い魔術が欲しいのだが」
男性の要求に、僕は高レベルな魔術を見せました。僕の得意技は、炎を使った技なのです。店で売っているカードには、僕や代々伝わってきた魔術が封じ込められているため、それを合わせれば術が使え、レベルアップも出来ます。
「なるほど、すごいな」
「お値段はこちらになります」
提示した額は、高レベルだけあり高価なものです。
「ふ……む。では、こちらの姫君にも扱える魔術はあるか?」
男性にそう言われ、僕は女性を見つめました。
「どこかの姫様なのですか?」
「はい。これから捕えられた父上を、この勇者と取り戻しに行くのです」
僕の問いかけに、姫君はそう答えられました。姫君というだけあって、気品のある顔立ちと雰囲気を持っておられます。
「それは大変だ。魔術を使うには、ある程度のレベルが必要です。レベルに合わないと、体がもちません。お二人のレベルを測らせていただいてもよろしいでしょうか?」
僕はそう言って、男性に判断を仰ぎます。
男性は少し考えた後、両手を広げて頷いた。
「もちろんだ。魔術に負けて自分が燃え尽きては元も子もない。さあ、計ってくれ」
その答えに、僕はレベル測定器を二人にかざしました。
するとどうしたことだろう。姫君はともかく、勇者であるはずの男性のレベルも、普通の人間レベルしかないのです。
「あれ、壊れたのかな……」
首を傾げ、僕は測定器を叩きました。
「壊れたのですか? では、私があなたを測定してみましょう。あなたは魔術が使える分、普通の人間よりはレベルが上のはずだ」
「そうですね、お願いします」
男性の言葉に頷いて、僕は測定器の前に立ちました。
すると、男性と姫君が歓喜の声を上げたのです。
「どうかなされましたか?」
僕の問いかけに、男性は僕に測定の結果を見せました。
「レベル59……」
普通の人間は、レベル20が平均です。僕はまだ若く、魔術売りとしてそれなりに鍛えているので、そのレベルになったのでしょう。勇者ともなれば、レベル99が当たり前です。
ちなみにさっき、男性はレベル27、姫君はレベル28でした。姫君のほうがレベルが上というのも、納得出来ません。
「あれ。僕のレベルはいつもそのくらいだから、壊れてはいないのか……?」
疑問に思っている僕の手を、男性と姫君が同時に取りました。
「君、勇者になってくれ!」
僕はめまいに似た驚きを覚え、目の前の二人を見つめます。
「なにをおっしゃるんですか! 僕はただの村人です」
「もったいないことを言いなさるな。君はもっと鍛えれば勇者にだってなれる。一緒に僕らと……いや、僕らを守るために戦ってくれ!」
「お願いします! 父上を助けて!」
涙目の姫君にも訴えかけられ、僕は目を泳がせ、そして壁際まで追い詰められました。
次の日、僕は再三に渡る説得に無理やり了承させられ、気が付けば勇者に仕立て上げられていました。
おしまい。