085 天井のシミ
※ホラー要素を含みます。
ある日、僕は寝る前に、布団に寝転がりながら漫画を読んでいた。夢中になって読んでいたその本は、異世界のバトル漫画。現実離れした話が面白くて、僕は時間も忘れて読みふける。
やがて読み終わり、僕は体を伸ばして天井を見上げた。
「あんなところにシミなんかあったっけ……」
見ると天井には、十円玉くらいの黒いシミがある。
何年か前に雨漏りもしたし、古い家だからそういうこともあるだろう。
僕はそう考えて、電気を消して眠った。
数日後、僕は天井のシミのことなんかすっかり忘れて、また漫画を読んでいた。
そして夜中になって読み終わると、ふと天井を見上げる。
「嘘だろ!」
思わず僕がそう言ったのは、この間は十円玉くらいだったシミの大きさが、直径十センチくらいまで大きくなっている。
「明日にでも母ちゃんに言っておこう」
僕は独り言を言って、眠った。
「あんたが言ってたシミだけど、天井だったわよね?」
次の日、学校から帰るなり、朝のうちにそう言っていた僕をつかまえて、母親がそう言った。
「うん、そう。十センチくらいデカいの」
「ええ? 本当?」
「なに、もっとデカくなってた?」
「ううん。私にはわからなかったけどね」
「え? 嘘だろ。あんなデカいのに……」
僕はそう言って、自分の部屋へと向かい、天井を見上げる。
だが、母親が言う通り、そこにはシミひとつない。
「あれ? おかしいな……」
「ほら、ないでしょう?」
「布団がこの辺だから、確かにあの辺にあったと思うんだけど……」
「前に雨漏りした時に天井は補修してあるんだから、そんなの今更出ないと思うけどね」
母親は、まるで僕が嘘を言っているかのように言い放ち、去っていった。
「本当におかしいな……光の加減で見えなくなってるとか? 下から見るといいとか?」
だがどんな角度から見ても、あのシミは見つからなかった。
「寝る前だったから、ボケてたのかな……そういや、数日であんなデカくなるわけでもないしな」
僕は何となく説明をつけて、机の前に座る。
宿題はすぐに終わってしまったので、また大好きな漫画を読み始めた。
「そういえばあのシミ、この漫画に出てくる異世界の入口みたいだ。クククク……」
現実世界とごっちゃになり、僕は変な楽しみ方をする。
その日の夜、僕は寝ようと布団を敷いたその瞬間、急に辺りが暗くなったので上を見上げた。
すると、目の前には天井全体を覆うほどのシミ、いや影がある。
「うわぁぁぁ――――!」
僕は発狂したようにそう叫び、そしてそのシミに呑まれていった。