083 ハート作戦
「彼女に好きだって伝えたいんだけど……なかなかいざとなると言えないんだよね……」
大学構内の昼下がり、一人の青年がそう言った。
相手にしているのは、同じサークル仲間の女子。
「で、なんで私にそんなこと聞くの?」
「そりゃあ、君は一通りの経験はありそうだし、俺はそんなに女友達いないからさ、こういうこと話せるのって、砕けた感じの君だけなんだよね」
「ま、いいけど」
「ご教授お願いします!」
そう言って、青年は賄賂とばかりに学食のメニューを差し出す。
「じゃ、アイスコーヒー」
「それだけでいいの?」
「太らせようっていうの? で、本題に入るけど、要は好きっていうのを伝えればいいだけじゃない」
「そんな簡単に言うなよ……」
「簡単よ。でも、後でどうなっても責任は取らないわよ」
「それはわかってるよ。そんなに簡単って言うなら、早く教えてくれ!」
机に手をついて頭を下げる青年に、女子は両手でハートマークを作って見せる。
「……なにそれ。そんなの彼女の前でやれって言うの?」
「違うわよ。普段のメールでいいから、文末にでもハートマーク入れてみれば? 遊んでるヤツなら深く考えないけど、ウブな感じのあんたなら、少しはわかってくれるんじゃない? どうであれ、ハートマーク入れるなんて、好意のしるしでしかないんだから」
「なるほど!」
青年はすぐに携帯電話を開く。
「普通の文面でいいんだよな?」
「うん。いつも通りでいいと思うよ」
「よし、じゃあ送信!」
しばらくして、返事が届いた。
『キモイ』
真っ白な灰になったような青年に、女子は奪うようにその携帯を見た。
どうして返事くれないの? 返事ぐらいくれたっていいじゃん。俺、何かした?
今度映画でも観に行こうよ。その後は食事→最後にはホ○ルでも。なんつって。
とにかく行こーよ。行こーよ。二人で会いたいー。
行ってくんないとどうなるかわかんないよ? マジで(ハート)
「あんた……そりゃ、フラれるわ」
女子はそう言って立ち上がると、大きなため息をついた。
「キモイ」
そう言って、女子は去っていく。
人は見かけによらない。そして彼はまだ、何が悪いのかすらわかっていない……。




