070 草食系男子
自分がそうだとは思っていなかったが、よく草食系男子なんて言われる。
べつに女の子に興味がないわけじゃないし、今まで一人も彼女がいなかったわけでもない。でも基本的にはモテないし、特に好きな子もいないし、なんかそういうのにがっつくのって、面倒くさいなんて思ってしまう。
「きーむら君」
クラスメイトの森岡が声をかけてくる。同じ図書委員ということもあり、最近よく話しかけてくる女子だ。ちなみに、僕を草食系男子なんて言い始めたのも彼女。
「なに?」
「今日、放課後空いてない? ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「空いてるけど、何?」
「図書室の本の入れ替え。先生に頼まれちゃって」
「……わかった、いいよ」
「よかった! ありがとう。じゃあ、放課後に図書室によろしく!」
そう言って、森岡は去っていく。
断れない性格もあったが、一人でやるには重労働の仕事ということはわかっていたため、断れるはずもない。それをわかっていて言い出すのだから、女の子っていうのは恐ろしいとも思った。
それでも放課後、僕は図書室へ向かった。
「ありがとうね、森岡さん、木村君。他のクラスの子なんて、全然手伝おうとしてくれないんだから」
「いいんですよ、先生」
森岡は、調子のいい笑顔を見せる。
「じゃあ、このダンボールの中の本、順番にあそこの空いた本棚に入れていって」
「はーい」
元気よくそう言った森岡は、数冊の本を持って踏み台に乗る。
僕は新しい本の入ったダンボール箱を、森岡のいる本棚の側へと運んだ。
「わっ」
突然、森岡がバランスを崩しそうになったので、僕はとっさにそれを止めた。
「あっぶないなー」
思わずそう言いながら、僕は森岡の上に降りそうになっていた本を食い止め、棚に戻す。
「……好き」
未だ僕に寄りかかっていた森岡が、静かにそう言った。
僕は驚いて、森岡を見つめ、そして苦笑する。
「なに言ってんの? こんなベタなシチュエーションで、簡単に好きとか言うなよ」
こんなことが琴線に触れたというのか。僕は少し森岡にがっかりした。もちろん、好きと言われたのは驚いたし嬉しい。でも、周りのカップルみたいに、簡単に付き合って簡単に別れるとか、そういう関係は考えられなかった。
「違う! たった今、好きになったわけじゃない……私、ずっと木村君のこと好きだったんだよ」
いつになく真剣な様子の森岡に、さっきまで冷静だった僕の顔は、一気に真っ赤になる。そしてさっきまで周りのカップルを小馬鹿に思っていた僕は、それに反するように森岡に興味が湧いていた。
「僕も……嫌いじゃないけど……」
うわずってそう言った僕に、森岡も真っ赤な笑顔を見せる。可愛いと思った。
その日、僕らは一緒に学校から帰った。