068 姉妹
美穂は十六歳。華の女子高生とは違い、どちらかというと地味なタイプである。
自宅である団地に戻ってくると、同じ階で少年とすれ違った。背が高く、顔もそこそこ良い、と美穂は観察をしたが、すぐに我に返ってお辞儀をする。
「こんにちは……」
そう言った美穂に、少年も会釈する。
「こんにちは」
たったそれだけを交わし、少年は去っていく。
美穂は家のドアを開けた。
「あら、美穂。おかえり」
ドアの向こうで、少女が麦茶を飲んでいる。一つ年上の姉、美也である。
「ただいま……」
「卓巳に会った?」
「うん、そこで……」
それだけを交わし、美穂は部屋へと入っていく。
さっきの少年・卓巳は、美也の彼氏だ。何度か家にも来ており、家族公認の仲である。
狭い団地では、美穂の独立した部屋はない。美也と同じ部屋のため、さっきまでここに卓巳が来ていて、ましてキスの一つでもしていたのかと思うと、なんだか汚らわしいような、羨ましいような、そんな気にさせられる。
「美穂。麦茶飲む?」
そこに、姉の美也がやって来た。聞いてはいるものの、すでに美穂のコップを持っている。
「うん、もらう……」
美穂は麦茶を受け取りながら、美也を見つめた。
同じ姉妹とは思えないほど、美也は垢抜けている。自分は自信がなく、そんな実の姉にすら目を合わせることが出来ない。
「美穂……」
そこに、美也がそう呼んだ。
「……何?」
素直になれず、卑屈な様子で美穂は返事をする。
「お化粧しよっか」
突然、美也はそう言って、有無も言わさず美穂を椅子に座らせる。
「ちょっと、お姉ちゃん。いいよ」
「いいじゃん、遊びの一環でしょ。そんなおどおどしてちゃ駄目。お姉ちゃんに任せな」
そう言って腕まくりをし、美也は美穂の髪を巻く。そして自分のメイク道具を机に広げては、美穂の顔に塗りたくった。
「ほら。出来たよ、美穂」
鏡に映った美穂。ナチュラルメイクだったが、そこにはいつもと違う自分がいた。
「……」
少し照れながらも、声も出ない美穂に、美也は微笑む。
「美穂は私の可愛い妹だもん。前みたいに、一緒にショッピングとかも行きたいし、遊びに行きたいよ」
美也の言葉に、美穂は目を泳がせる。
いつからか、何もかも比べられる美也を避けるようになっていたのは事実である。
「……お姉ちゃん、メイク教えて。ちゃんと覚えたら……一緒に出かけよう」
「うん! じゃあこのメイク道具、全部あげちゃう」
抱きついてくる美也が、素直に可愛いと思えた。そして自分を愛してくれている美也に、美穂は妹として返したいと思う。
週末、ショッピングに出かける二人は、近所でも評判の美人姉妹になっていた。