067 遠距離恋愛
高校三年生の冬、やっと叶った念願の恋が遠距離恋愛になるなんて、思ってもみなかった。
「早瀬」
土屋君の声が聞こえる。私は嬉しいながらも、今考えていた不安と寂しさに、複雑な表情をして笑う。
「どうかした?」
「ううん」
「ごめん、遅くなって。帰ろう」
「うん」
私たちは、分厚い雪の覆った放課後の学校を出ていく。
土屋君には、秋に私から告白をした。初めての彼氏。まだ付き合って三か月の彼は、この雪国を出て、近畿地方へ旅立つ。そちらの大学を受けるというのだ。
それほどまでに強い意志を持つ彼とは反対に、私は親が勧めるまま地元の大学を受けることになっている。一緒についていこうとも思ったが、そんな安易な考えを親が許してくれるはずもない。
「土屋君は、どうしてあっちの大学受けるんだっけ……」
私の言葉に、土屋君は笑う。
「教わりたい教授がいるんだ。それにもともと親があっちの出身だから、俺にも合ってるし。親戚の家があるから、そこから通わせてもらうことになりそう」
「そうなんだ……」
「早瀬はこっちの短大受けるんだよな?」
「うん……」
「離れ離れになるな……」
そっと言った土屋君の腕を私は静かに掴んだ。
土屋君は私の不安を察するように、反対側の手で私の頭を撫でる。
「大丈夫。ちゃんと好きだから……俺、離れてたって浮気なんかしないし、それより早瀬のほうが心配」
「え?」
「女子大だろ? そういうのってモテそうじゃん。合コンとか派手にしてたら怒るよ」
「そ、そんなことしないよ」
ムキになった私に微笑み、土屋君は静かに私の唇にキスをした。
「ごめん、遠くに行って……でも、俺の夢でもあるんだ。一緒に連れて行きたいけど、それが無理なら我慢出来る。外国に行くわけでもないし、出来るだけ会えるようにする。だからそんな悲しい顔しないで……俺から告白したわけじゃないからかもしれないけど、ちゃんと好きだよ」
放課後の帰り道、私たちはそっと抱き合う。
不安はいっぱいあるけれど、どうしようもないこともある。だけど今、それを乗り越えられる気がした。