057 おばけさん
僕はおばけ。どうしておばけかは知らない。
人間だって、どうして人間かなんて知らないだろ? それとおんなじ。
僕はおばけ。人間を少し驚かすのが好き。
でも、怖がらせたりはしないよ。本当は、人間と話したいんだ。
「おばけ……?」
僕と目が合う女の子がいた。
墓参りに来ていた女の子で、名前をキョウという。
「君は僕が見えるの?」
「うん、見えるよ」
その日、僕は初めて人間の友達が出来た。
キョウは墓場近くのおばあちゃんの家に帰省しており、あと何日かで帰ってしまうらしい。
「それまで一緒に遊ぼうよ。キョウ、一人で遊んでたの」
キョウに連れられ、僕はキョウのおばあちゃんの家へ向かった。
そこで僕は、おばけになる前のことを思い出した。
「ここは……僕の家だ」
僕の言葉が理解出来ず、キョウはきょとんとしている。
僕の記憶が、だんだんと思い出される。
そこで、僕は一人の老婆と出会った。
「ヨウ……」
老婆は、僕の娘である。
でも彼女に、僕の姿は見えない。
「そうか、僕はキョウに出会い、ここに連れて来てもらうために、今日まで生きていたんだね」
「おばけさん! からだが透けてるよ!」
キョウの言葉に、僕は静かに笑みを零す。
「ありがとう、キョウ。僕はこの世に未練がなくなったみたいだ。どうして今日まで忘れていられたんだろう……あの子の元気な姿が見られて、そして君に会えて、本当に嬉しいよ」
そして僕は、キョウの前から姿を消した。
「キョウちゃん?」
おばあちゃんが、庭先で佇むキョウに声をかける。
「おばあちゃん! おばけさんがいなくなっちゃった!」
泣きながら抱きつくキョウに、おばあちゃんは庭先を見つめる。
ふと、暖かな視線のようなものを感じた。
「そう……でもそのおばけさんは、きっといいおばけさんね。悪い気分がまったくしないもの」
「うん。優しかったよ」
「キョウちゃんが立っていたところにね、大きなひまわりが咲いているでしょう?」
おばあちゃんの言葉に、キョウは涙を拭いて、庭先を見つめる。
その先には、大きなひまわりが誇らしげに咲いていた。
「うん……」
「あのお花はね、おばあちゃんのお父さんが植えてくださったのよ。だからあの場所が好きな人に、悪い人はいないの。だってお父さんが守ってくださっているんだもの」
「おばあちゃん……」
「だから、たとえおばけさんが消えてしまっても、キョウちゃんの胸の中で生き続けて、きっと守ってくれるわね」
「うん!」
キョウの元気な声が聞こえた。その声は、幼いころの娘の声を思い出す。
僕は守るよ。あの大きなひまわりのような、温かい心を持って――。