054 ラブ・レター
鞄の中にはラブ・レター。
それも年季の入った、しわくちゃなラブ・レターがある。
私は何度も、彼にその手紙を渡そうとした。
朝一番、彼の机の中に入れておいたこともある。
でも、待っている間に思い直し、それを出した。
放課後、部活終わりの彼を待っていたこともある。
でも、結局渡す勇気はなかった。
バレンタインも、誕生日も、いくつかきっかけはあったのに、私には勇気がない。
きっともう言えない。たとえ明日が、卒業式だったとしても――。
「付き合ってください!」
乾いた風の中で、そんな声が響いた。
私の目の前には、彼がいる。彼が手を差し出している。
「……う、受け取ってください!」
私は目をしっかりとつぶりながら、恥ずかしさを堪え、逆に手を差し出した。
その手には、年季の入ったラブ・レターが握られている。
「え……読んで、いいの?」
もはや何も言えない私に、彼はその手紙を受け取り、読み始める。
私はもう、恥ずかしさにこの場から消えたくなった。
だけど彼は、思いのほか、明るい表情で私の手を取る。
「付き合おう」
彼の照れた笑顔が、私の心を揺さぶる。
「は、はい……」
緊張しながらも、私はそう言って頷いた。
自分からは言い出せなかったけれど、彼は私を選んでくれた。
夢が叶った瞬間だ。