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053 追憶の人

 淡い夢でも、あなたを愛していいですか。

 もう会えなくても、あなたを想っていいですか。


 僕の恋は、一生叶わない。

 ただ一度だって、その想いが報われたこともない。

 それでも僕はこの恋を、諦められずにいる。


「翔くん」


 母さんの声が聞こえる。


「翔くん」


 母さんの足音が聞こえる。


「翔くん」


 母さんの顔が見える。

 いや、僕の脳裏に思い浮かんでいるだけだ。


 僕は母さんに恋をした。実の母親ではない。

 父さんの恋人に、僕は恋をした。

 年も何もかも違うあの人に、僕は恋をした。


「さようなら」


 高校を卒業したその年、ただそれだけを書いて、僕は家を出た。

 僕の想いは秘められたまま、彼女に気付かれることはないだろう。

 報われない想いだとは思わない。それ以前に、終わらない恋だ。

 だって、どんなことをしたって、忘れられなかったから――。


 親にしてみればまだ子供。いつか僕は、連れ戻されるだろうか。

 だけど母さん、次に会う時はきっと、あなたの理想の息子になって会えるだろう。


 僕はあなたを困らせない。だから今は、僕に時間をください。

 あなたと真正面から、向き合える時間を――。

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