052 シロの家族
シロは雑種の子犬。公園の片隅で生まれた。一番遅く生まれて小さく、雑種というのに真っ白だった。
父親は知らない。だが母親はいつも優しく、シロと兄弟たちに乳を飲ませる。
「おなかすいた……」
事あるごとにミルクを強請る兄弟たちに、母親はそっと微笑んだ。
「もうお乳が出ないの……栄養つけるために、何か食べ物探してくるね。ここから動いちゃ駄目よ。猫に襲われたら大変」
母親はそう言うと、よろよろと草むらから出ていった。
途端、母親の悲鳴が聞こえ、シロは兄弟たちと草むらから顔を覗かせる。
すると、人間の子供が、母親を苛めていた。
「お母さん!」
「来ちゃ駄目!」
母親の言葉に身がすくんだが、人間の子供はシロたちの存在に気付き、近付いてくる。
(おい。こっちに子犬がいるぞ。汚ねえ)
「逃げて!」
母親の声が聞こえ、シロは兄弟たちと一目散に走り出した。
「誰か助けて!」
シロの小さな体では、全速力で走っても子供に追いつかれてしまう。
その時、シロの目の前に、大きな猫が立ちはだかった。
「猫だ!」
母親に猫は危険だと教えられていたシロだが、勇敢な唸りは上げられても、その場に身をすくませる。
「どいてな」
猫はそう言うと、追ってきた人間の子供の前まで歩き、身を震わせて威嚇し始めた。
人間の子供は互いに目配せすると、その場から静かに去っていく。
「シロ!」
その時、シロの母親がやってきた。傍らには兄弟たちがおり、みんな無事だったようだ。
「お母さん」
「シロ、猫から離れなさい」
そう言われ、シロは猫を見つめた。
猫は横目でシロを見つめ、優しく微笑みかけている。
「お母さんが呼んでるよ。行ってやんな」
猫の優しさを感じ、シロは数歩前へ歩いた。
「お母さん。この人が僕を助けてくれたんだ」
シロの言葉に、母親はまだ警戒心を取っていない顔をしている。
その時、猫は母親のもとへ歩いていき、仰向けになった。警戒心などまるで感じさせない。
「ぼうやたちにミルクを分けてやるよ。私も最近、子供を失くしたんだ」
その言葉に、母親の警戒心も解けていった。
やがて誰とも言わず、シロの兄弟たちが猫の乳を吸い出した。シロは母親を見つめる。
「分けていただきなさい」
母親は頷きながらそう言ったので、シロも猫のもとへと向かった。
その日から、シロには母親が二人出来た。