044 醜い世界の中で
「動くな!」
外国人の兵士に銃を向けられ、私はその場に立ちすくみ、両手を上げた。
「よし、そのまま歩け」
見知らぬ言葉で何かを指示されたが、わからない。
「歩くんだ。さっさとしろ!」
銃口で背中を叩かれ、私は前へと歩き始める。きっとこのまま殺されるのだろう。
その時、後ろのほうで大きな爆発音が聞こえた。あの音は知っている。地雷だ。
私たちの住む町は戦禍に覆われ、今ここにあるのは恐怖、不安、絶望など、プラスのことなど少しもない。
ああ私の死は、私を捕らえた兵士の手柄になるだろうか。それともただ、名も知れぬ大勢の中で虫けらのように殺され、私が生きていたことなどわからないように、辱められ、いたぶられ、殺されるのだろうか。たぶん、後者のほうだろう。
「空……」
死を悟って、私は空を見上げた。
戦争が始まってから、空を見るのが怖くなった。空から爆弾が降ってくる。
「あ……」
次の瞬間、世界のすべてが光に包まれた。
私は物を考えることさえ失い、その光に呑まれていった。もちろん、私を捕らえた兵士も、地雷で傷を負ったであろう人間も、すでに死んでいる者たちも――。
ボタン一つで他国から打ち込まれるミサイル。それに比べれば、人の手で捕らえられ、そのまま死んでいたほうが幸せだったのだろうか。それとも、一瞬で死ねる爆弾のほうが幸せだったのだろうか。
私の死は、同じ国民の死は、敵の兵士の死は、同じものなのか?
結局私たちは、存在そのものを焼きつくされた。残っていたのは、焼きついた人の影だけである。
生物を殺して生かされている人間。その人間が、人間同士争い合うのは何故なのか。なんのために生きるのか、なんのために死んでいくのか。なんのために戦うのか。そんな意味を、私は問いたい。