043 殻を打ち破れ
どれだけ好きって言ったら、相手に伝わるかな……。
それとも、誰にも好きって言わなければ、この恋は叶うかな……。
そんなことを思って早一年。私、戸田さくらの片想いは、一向に成就しない。
片思いの相手は、同じ予備校に通う佐藤君。明るくて人気がある。
学校とはまた違うこの場所は、私に思わぬ出会いをもたらしてくれた。
「さくらちゃん。この問題わかる?」
私を見つけるなり、佐藤君がそう言って近付いてくる。それは、私がこの中じゃ優等生と認識されているからだろう。
彼に名前で呼ばれ始めたのは最近のこと。みんなで一緒に飲みに行ったのがきっかけだ。
「どこ? ああ、この問題難しかったよね」
色気のない話題だ。でも、こんなことじゃないと彼とは話せない。
彼から彼女の話を聞いたことはないが、モテそうな風貌に、私は半ば諦めている部分もある。
「ねえ。佐藤君って、彼女いるの?」
ハッとした時はもう遅かった。心の中の声が出てしまっていたかのように、私は思わぬ話題を振って後悔した。
「いないよ」
だが思いのほか、佐藤君は即答でそう言った。
「え?」
「いないって。俺、モテないもん」
「嘘だ!」
「本当。なに? それ、期待していいの?」
突然、佐藤君はいたずらな目で私を射抜く。
私は恥ずかしさのあまり、顔を背けた。
「なに言ってんの。ちょっと気になっただけ。みんなも……言ってたしさ」
そう言ってはぐらかしているところに、先生が入ってきた。
ドキドキしている心臓の音、聞かれているかと思った――。
その日の帰り、佐藤君を見ると、別の女の子に声をかけられ、楽しげに話しているのが見えた。
私は何も出来ない自分に腹を立てながら、帰り支度を始める。
「やるよね、あの子」
帰り際、仲の良い女友達が、佐藤君のほうを指差して言った。
「え?」
「今日、告るらしいよ。佐藤に」
それを聞いて、私は頭が真っ白になる。だが、どうせ何もしない。自分の殻さえ破れない臆病者だということを、私は子供の頃から知っている。
私は時が止まったかのように、佐藤君を見つめた。積極的な女の子が同時に目に映り、羨ましさを感じる。
「駄目だ……」
唇を結んで、私はそう呟いた。
道は自分で切り拓くものだろう、そう悟ったのだ。いや、初めから知っていた。知っていたけれど出来なかった。今もまだ、足がすくむ。
「後悔する前に逃げちゃ駄目だ……」
私は佐藤君のもとへと駆け寄った。