039 隠しごと
今日も妻は、夫を責め立てる。
「またキャバクラ行ったでしょ」
「仕事でね」
「どうして黙ってるのよ」
「仕事だから、いちいち言うことでもないだろう」
「この間は嘘吐いて行ってたわね。浮気でもしてるんじゃないの?」
「してないよ。大体、済んだ話を持ち出すなよ。君がそうやって言うからだろう?」
同じような会話が、この家だけではなくて、少なからず繰り広げられているはずだ。
やっと妻の小言が終わり、夫は溜息をつきながらテレビの前に座る。くだらないバラエティ番組を見つめながら、安い酒で喉を潤す。
妻はそんな夫を尻目に、風呂場へと入っていった。
「浮気してるかって聞くやつほど、浮気してるんだよ」
テレビタレントの言葉に、夫はびくっとして振り向いた。
「まさか、な」
夫は酒に手をつけるが、なんだか耳に焼きついている。
「いやいや。うちの妻に限って……」
夫は放置された妻の携帯電話に手を掛けるが、思い留まって俯いた。
「これはいかん。他に何か……」
今度は、夫は妻が使っている机に向かう。引き出しに手を掛けるが、それも思い留まった。
「いかんいかん、これでは泥棒と同じ……」
そうは言っても、やはり気になる。
夫は思い切って、一番上の引き出しを開けた。だが、文具が入っている以外に、怪しいものは何もない。
「やっぱりな。何もあるわけがない」
安心して、夫はリビングへと戻っていった。
テレビは点けっぱなしだが、面白くない番組にうんざりしたように、夫はそばに投げ出してあったカタログに手を伸ばす。普段は妻以外には見ないものだが、暇つぶしにはいいだろう。
そんなカタログの間に、数枚のホストクラブの名刺が挟まっていた。
「ホストクラブ……」
夫の疑惑と怒りが、一気に湧き上がる。
一方、妻は風呂場で、夫の携帯電話をチェックしていた。夫と違って、罪悪感はまるでないらしい。
履歴に残った女の名前に、妻は嫉妬心で狂った。
「また飲み屋の女の子ね。やっぱりじゃない。最低!」
その夜、同一の立場となった夫婦のバトルが開催されたのは、言うまでもない。