354 LOVE AFFAIR
君は僕から、三歩後ろを歩く。
見る人から見れば、知り合い。見る人から見れば、他人。
決して街の中で手を繋ぐようなことなど出来ないのに、
彼女は僕にただ黙ってついてくる。
妻と不仲なわけではない。愛していないわけでもない。
だが僕は、この年下の彼女に、身も心も溺れているのは事実だ。
何かを壊したいわけでも、奪いたいわけでもないのだが、
僕がしていることといえば、社会に反する許しがたい行為なのだろう。
わかってはいても、この関係を僕から崩すということが出来ないのは、
仕事から、家庭から、繰り返すだけの毎日から、逃げ場が一つもないということにある。
そんなことはただの言い訳だともわかっている。
だが僕は、細く儚いその身体を、失いたくはない。
ああ、君も空しさを感じていることだろう。
時に泣き、時に笑い、そんな表情を見せるのもまた、二人きりの時だけ。
君が何も望んでいないわけではないことくらい、わかっている。
だが僕は、君の優しさに年上だということも忘れ、甘えているんだね。
世界中から置き去りにされた二人きりのこの場所で、
何も考えずに、このままずっと溺れていたい。
それが淡い夢で、いつか悪夢が襲って来ようとも、
今はただ、このゴミ屑のような都会の片隅に隠れていよう。
朝が来れば、またいつもの他人同士。
敬語を使い、目を逸らす。
プライベートでは、電話もメールも出来ず、週末も会えない。
ああ、いっそこの罪深き心を、君の愛で殺してください。