341 情けない俺が、君に出来る最後のこと
パチン、という音とともに、痛みが頬に広がった。
目の前には、世界中の誰よりも大切な君の顔。
笑うと天使みたいに可愛いのに、
目の前の君の顔ときたら真っ赤に染まり、怒りの形相で俺を睨んでいる。
それでいい。もっと殴っていいんだよ。
俺を憎んで、顔も見たくないくらい憎んで、
君の心の中に、俺という欠片も残らないくらいに忘れてほしい。
好きなだけ殴って君が楽になるのなら、俺はこの身を差し出すよ。
心をしまい込み、涙に濡れた君を冷たい目で見下ろすと、俺は君に背を向けた。
もうこれで会うこともないだろう。
なぜ最後に、大好きな君にこんな仕打ちをしなければならないのか。
それが俺に出来る最大の優しさなんて、格好が悪くて言えやしない。
もうすぐ、君は結婚する。俺とは違う、別の人と。
これでいいんだ。俺の幸せは、君の幸せなのだから。
このまま君を連れて逃げても、君を幸せに出来る自信はない。
情けない男だろう。一生そう罵ってくれればいい。
背中に叫ぶ君の声を聞きながら、俺は静かに泣いた。
こんな俺でごめん。でも俺は、君のことが大好きだよ。
一度だってそう伝えることも出来ず、俺は君を捨てた。
さよなら。勝手だけど言わせて……ごめんな。