表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
340/371

340 魅力

 自分の魅力は自分にはわからない。自分の個性というのは、自分が欠点だと思うところだって誰かが言ってた。でも欠点だらけの私を相手してくれる人なんていないわ。

 そんなことを思いながら学校から帰る。木枯し吹く街を、私は一人で歩いていく。

 子供の頃からいじめられていた私は、いつしか人目を避けるようになっていて、目立たず地味に生きることを決意する。友達なんかいなくても、いじめられるよりはいい。

 手つかずの長い黒髪を揺らしながら、私は駅へと向かっていった。

「おい、あの子……」

 そんな声が聞こえ、そっと振り返ってみる。

 みんなが私を見ている気がする……昔そんなことを言ったら、当時いた友達に、自意識過剰だと言われた。それから反省して、そういうことを考えないようにしている。

(長くなった髪が目立つのかな……)

 またも人と目が合い、私は目を伏せた。それと同時に、自分の身なりを確認する。べつに服が乱れているわけでもないし、臭いがきついわけでもなさそうだ。

 やはり気のせいだと思い直し、駅の構内へと歩いて行った。

「あれ。大川じゃん」

 その声に、私は目の前の人物に目を凝らす。クラスメイトの小室君のようだ。クラスの中でも、男の子は普通に声をかけてくれたりするので、女の子よりは怖くない。

「小室君?」

「なんで睨むんだよ」

「え、睨んでなんか……あ、視力が弱いから……」

 前にあったいじめの原因の一つは、私の目が悪かったこともあった。目が悪いので、睨まれたと思う人は結構いたみたいだし、遠くから声をかけられても気付かない時もあったから。だからいじめといっても、自業自得なのだ。

「へえ、そうなんだ? メガネしねえの? コンタクトとか」

「そこまで悪くないし、慣れてるから。コンタクトなんて怖いし」

「ふうん?」

 方向が一緒のため、なりゆきで私たちは同じ電車へと乗った。

「大川ってさ、友達作んないの?」

 突然、小室君がそう言ったので、私は口をつぐむ。

「そんなことはないけど……」

「でも、どこの女子グループにも入ってないよな? 中学の時もそうだったって、同中のやつが言ってたけど……って言っても、べつにわざわざ大川のことについて調べたわけでもないんだけど」

「……いじめられてたの。小学校の時。中学では友達も何人かいたけど、やっぱり離れていって……」

「人間不信?」

 小室君の言葉に、私は苦笑して答える。

「でも、こうして話しかければ、普通に話してくれるよな」

「無視したりしないよ」

「そうだけどさ」

「それに……男の子は少し楽。女の子は少し難しいんだ。私、グズだしブスだしトロイから……」

「ハハッ」

 その時、小室君が鼻で笑ったので、私は少しムッとした。

「笑うなんてひどい。人が真面目に話してるのに……」

「ごめんごめん。だって真顔で言うからさ……女子って本当にくだらないよな。完全に妬みじゃん」

「え?」

 怪訝な顔の私を見て、またも小室君が笑う。

「大川、本当にもったいないなあ。今まで教えてくれる人いなかったのかよ……っていうか、自分で気づけよ」

「意味がわからないけど……」

「じゃあ、俺と付き合ってって言ったら、少しは自信つく?」

「か、か、からかわないで!」

 電車の中なのに、私は大声を出してしまった。それが後ろめたくて、私は小室君に背を向ける。

「……からかってないよ。ずっと好きだったんだ。付き合ってほしい」

 後ろから聞こえる小室君の声に、私は戸惑いを覚えていた。

「誰が私なんかを相手にするんだろう……」

 心で呟こうと思った言葉が、不思議と出てきてしまう。

「なんだよ、それ……人が真剣に言ってるってのに、信じもしないのかよ!」

 今度は小室君がそう怒鳴ったので、私は振り返って人目を気にしながらも、目の前にいる小室君の顔から目が逸らせなくなっていた。

「だって……私、目立たないようにしてきたのに……もうからかわれたり、いじめられたりするの嫌なのに」

「付き合うのが駄目なら、友達からでいいよ。友達だから、大川をからかったりするやつがいれば守ってやる。約束する」

 そう言って手を差し出す小室君の手に、私はおそるおそる触れた。温かい手だ。

「大川。胸張って生きろよ。そんなすらっと背が高くてさ、綺麗な顔してるのにもったいないよ。子供は残酷なところあるから……小学生の時は、きっと大川の綺麗さに嫉妬してたんだよ。俺以外の男子だって、大川は美人だし独特な雰囲気持ってるから、声かけられずにいるんだ。それだけだよ。自惚れてていいんだ」

「……そんなこと思えないよ」

「少しずつでいいじゃん。俺は今、大川に声をかけた自分の勇気に満足してる。大川は、本当に地味に大人しく生きるのが望みなの? そんな人生つまんねえよ。ただ息して生きてるだけなんてさ。これからは友達として、何かあるなら手伝う気まんまんだけど?」

 不思議な言い回しをする小室君に、私は観念するように笑った。なんだかうじうじしていた自分が馬鹿らしくさえ思えてくる。

 本当だ。私の望みは、そんなことではなかった。さっきまでいた私の世界は、地味で根暗な暗い世界。でも彼のおかげで、私の世界がほんのちょっぴり、動き出した気がする。きっとここから、静かに世界が広がり出すだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ