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034 超能力マジシャン
「ワン、トゥー、スリー」
手のひらのコインが消える。
「タネがあるんだよ」
知ったかぶりの子供が大声でそう言ったので、俺は苦笑した。
「もちろん。マジックだからね。じゃあもう一度。ワン、トゥー、スリー」
何もなかった手のひらに、コインが現れる。
「おおー」
子供たちは首を傾げながらも、目の前で起こるタネ仕掛けの奇跡に心奪われているようだった。
俺はそんな職業に空しくなりながらも、今日の仕事を終えた。
普通のマジシャンなら、タネを見せないようにするだろう。イリュージョンとして、大がかりなことをする人も少なくない。
だが俺は違う。簡単なマジックが出来ればいい。そうでないと、途端に化け物扱いされてしまう。
俺の意思によって動くコップ、浮くジャケット。タネも仕掛けもないその能力を隠すように、俺は俺の力を見て見ぬ振りをした。