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339 39年目の純愛

 大学卒業と同時に就職し、二十代で結婚し、子供をもうけ、三十半ばで離婚。これもまた普通の人生だろうか。

 独り身になった俺は、すでに若さも持ち合わせておらず、四十を目前に、ただ絶望していた。

 この先、恋をする気にもなれないし、再婚なども考えられない。ただ毎月、子供ために送る養育費を稼ぐためだけの毎日。あれだけわずらわしかった家庭も、今となっては恋しいし、金のつながりだけでもありがたいと思う侘しい自分に気付いている。


 そんな平凡で冴えない毎日を送る俺のもとに、一通の葉書が届いた。小学校の同窓会の葉書だった。

 高校や大学の同窓会は頻繁にあったのだが、小学校という名にピンとこない。とはいえ、高校まで一緒だった仲の良い友達もいたし、なにより暇だったので、俺は出席にマルを打って返信した。


 同窓会当日。早速仲の良かった友達を見つけ、俺は楽しい話を咲かせた。久々にストレスを発散出来る気がする。

 ふと視線を感じて、俺はそちらの方向を振り返った。

「本間じゃん?」

 友達が、横でそう言った。

 俺は一人の女性と目が合ったまま、それを逸らせずにいる。

 だが、すぐにあちらが目を逸らしたので、俺は我に返った。忘れていた思い出が、沸々と蘇る。

 本間さん――小学五年生の時のクラスメイトで、俺の初恋だった。もちろん、今まで忘れていたわけじゃないし、あわよくば今日会えるかもしれないという期待は抱いていたが、当時の甘酸っぱい気持ちなど、今の今までわからなかった。


 やがて会も終盤の頃、俺は喫煙室に向かう際、向こうから歩いてくる本間さんに気付いた。

「本間さん……だよね。覚えてる? 俺、遠藤です」

 そう言った俺に、本間さんははにかんだ笑顔を見せる。同じ年――四十近いはずの彼女だが、なぜだが小学校の頃の面影を残したまま、可愛らしい大人の女性へと変化している。

「覚えてるよ、遠藤君。あの頃は毎日、学校一緒に帰ったよね」

 本間さんの言葉に、俺は少し赤くなる。

 小学五年生のあの頃、俺は初恋の彼女に思いを秘めたままいた。アクションを起こしたのは、意外にも彼女から。バレンタインデーに、彼女からチョコレートをもらったのをきっかけに、小学校を卒業するまで一緒に帰った仲だった。

 もちろん、今の進んでいる現代っ子のように、付き合うとかそういうのではなかったけれど、俺たちは間違いなく両想いだったし、決して家も近くないのだが、毎日の家路を一緒に帰った。

 それもまた中学に上がると、部活やなんだですれ違いがあったり、二人で帰るのが恥ずかしかったりして、結局何も言わずに中学を卒業してしまった思い出がある。

 高校も別々だったので、本当にあれから彼女と会うことすらなかった。

「うん。高校も別々で、会う機会もなかったけど……元気にしてた?」

 俺の言葉に、本間さんは頷く。

「うん、元気。今は結婚も離婚も経験して、たくましくなった」

「え、そうなの? 俺も同じ」

 意外だった。彼女は明るく優しい家庭を築き上げていると勝手に思い込んでいたからだ。

「そうなんだ。お子さんは?」

「いるよ。向こうが引き取ったけど……」

「そう。うちは私が引き取ったわ。二人共、まだやんちゃ盛り」

「また今度……会わない? ゆっくり話でもさ」

 気がついた時には、もう本間さんを誘っていた。もう少し話していたいと思ったんだ。

「……うん。いいよ」

 俺たちはお互いの連絡先を交換し、その日を終わらせた。

 もう大人同士。恋愛に発展するには、お互いの勇気が必要だし、今はまだそんなに急ぐことでもないと思う。

 でも、俺の忘れていたあの頃の純情が、今の何もない俺を支えてくれるような気がした。

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