336 おかあさん
「なにが食べたい?」
そう聞かれた私は、おなかに相談する。
「なんでもいい」
そう答えた私に、お母さんは困った顔をする。
「なんでもいい、が一番困るのよねえ」
だってお母さんの料理でまずいものはないもの。なんだって食べたい。
「クルミパンにハマってる」
何の気なしに言ったいつかの言葉の通り、
ある日の食卓にはクルミパンが置かれていた。
「ああいう服可愛いよね」
何の気なしに言ったいつかの言葉の通り、
誕生日のプレゼントは目をつけていた洋服をくれた。
「正月には帰るからね」
何の気なしに言ったいつかの言葉の通り、
一年分のごちそうとも思える私の好物と、ふかふかの布団が用意されていた。
お母さん。
反発したこともあったし、今でも素直になれない自分がいるのですが、
母になった今の私には、お母さんの気持ちがわかるようになりました。
「なにが食べたい?」
そう聞かれた私は、おなかに相談する。
「なんでもいい……」
本来ならそう言うところを、私は堪えた。
「カレーライス!」
お母さんは嬉しそうに、腕まくりをする。
「カレーね。オッケー」
お母さん。
久々に帰ったから、今日の夕飯はどこかに食べに出かけようか。
永遠にお母さんの娘である私は、こんなささやかな親孝行が出来るようになったのです。