331 STOP
「手を上げろ」
異国の言葉でそう言われ、僕は言葉を理解したわけでもなく手を上げた。
ジャングルの奥地。ジープの行く手を阻んだのは、まだ年端もいかない少年たちである。
この国が内戦状態だったのは知っていたが、大学の夏休みに旅行でこの地を選んだのは、ただ本物のジャングルというものが見たかったから、という安易な考えである。自分は大丈夫だとわけのわからない自信に溢れていたのは、本当に浅はかだったと後悔するが、それももう遅い。
「たすけて……ヘ、ヘルプミー」
見るからに頼りない声を出して僕がそう言うと、数人の少年が僕の体に触れた。
上着を脱がされ、ポケットを探られ、財布や煙草はもちろん、チューインガムまではぎとられる。
その時、銃声が鳴った。
「うわあああ!」
痛みは感じなかったが、あまりの轟音に、僕は叫ぶ。
だが、やられたのは僕ではなく、同乗していた運転手だった。
少年たちは、運転手が持っていた護身用のピストルを手にし、それをかざす。
そして僕に顎で指図し、僕は感じるままに歩き出す。少年たちはついて来ようとはしなかった。
「た、助かったのか? 僕だけ……」
慣れていると言っていたものの、僕の運転手をしてくれた人に申し訳が立たない。だがもはやあれは亡骸で、今僕は自分自身の命も危うい状態なのだ。薄情と言われても、僕は小走りでジャングルの中を歩き始める。
目的地までの距離もわからないが、僕は歩き続けるしかないのだ。
それから何日も歩き続け、僕はようやくひとつの町に辿り着いた。
やってきた大使館員に宥められながら、僕はようやく安堵する。
「銃を持っていなくてよかった」
ジャングルの向こうでは、今日も銃声が鳴り響いている。