表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
322/371

322 ハーフフラワー

 生まれて初めての海外旅行でやってきたのは、南の島。

 新婚旅行ということもあり、身も心も舞い上がるようなハネムーン……のはずが、些細なことで喧嘩し、険悪なムードのまま、私はホテルの部屋を飛び出した。

 思えば英語もままならないので不安はあったが、幸い財布やカードは持ってきたので、少しは安心出来る。

 でもホテルから出る勇気はなく、私はホテルの中庭にあるプールサイドの椅子に座り、気持ちを落ち着かせた。

「でも……やっぱ許せない」

 ぼそっと呟きながら、結婚して間もないのに、成田離婚の文字まで浮かぶ。

 本当は意地を張りたくないし、こんなことでは前途多難というものだが、私にも譲れないことがあるのだ。

「追ってなんかこないよね……」

 彼がそんな性格でないことは知っている。いつもの喧嘩だって、私ばかりが熱くなって、向こうからは構われなくなり、結局私が歩み寄ることしか出来ていない。彼は喧嘩となっても、気にとめた様子すら見せないのが、余計に腹立たしくもある。

「これじゃあ、私ばっかり子供じゃない。ちゃんと喧嘩にもならない……」

 薄暗いプールサイド、私は空を見上げた。空には星が輝いている。

「おい……」

 その時、彼の声が聞こえた。

「……追ってくるなんて、珍しいじゃない」

 まだ素直になれず、私は横を向いてそう言った。

「そりゃあ海外だし、心配だよ。いつもだって、出て行かれる時は心配してる」

「でも追ってこないじゃない」

「そりゃあおまえが、俺のところに帰ってくるって信じてるから」

「そんなの……わかんないよ。言ってくれなきゃわからないし、たまには態度で示してほしいの」

「うん。ごめん……」

 そう言いながら、彼は小さな花を差し出した。それは観光先でも現地の人に紹介してもらった、ハーフフラワーという白い花である。花びらが半分になるように咲く小さな花は、二つ合わせて一つの花に見えるため、カップルに人気だと聞いた。

「ハーフフラワー……?」

「誓ったばかりなのに、怒らせてごめん。今回は俺が悪かったと思う。許してくれ」

 数日中に起こった旅行のことを思い出したり、つい先日の結婚式や披露宴のことも思い出し、私はやっと素直になったように、思い直す。

「うん……私も、ごめんなさい」

 彼から花を受け取り、私はそう謝った。

 すると、彼が持っていたもう一つの花を差し出す。

 何も言わず、私たちは無言でその花を合わせた。幸せが訪れるというその行為は、私たちの仲直りまでさせてくれた。

「俺たちは、二人でひとつだよ。今までも、これからも」

「うん」

 真夜中のプールサイド。私たちはドラマのように抱き合い、キスをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ