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312 虫の声
ミンミンゼミが、けたたましいほどの叫びをあげている。
あの命も、もうあと何日しかないはずだが、
それでもセミは鳴く。
あの命が、もうあと何日しかないからだろう。
せみしぐれが止んで、ヒグラシが鳴いた。
夏が終わりの時を告げる。
真っ青な空が、いつの間に陰りを見せる。
日は短くなり、秋へと近付いてゆく。
ほたるが横切る頃、遠くで鈴虫の声が聞こえた。
あたりはすっかり涼しい風が吹いている。
ああ、今年も秋がやってきた。
虫の合唱の中、空には花火が打ち上がった。
虫たちが告げる季節は、人間にとっても重要だ。
こんなに風流な思いを、身近に感じることが出来る幸せ。
虫たちよ、どうか来年もその命を受けられますように。
私たちも、その努力をしなければならないのだと、
しいんと静まり返った、不気味な夏が警鐘を鳴らす。