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309 別れの時
きっとあの人は来ないわね。私は惨めな身の上を笑い、うなだれた。
ここはどこだろう。さっきまでの賑やかさはまるでなく、消えたネオンに雨まで降り出したビル街の広場には、私をより惨めに浮かび上がらせる。
「来るまで待ってる」
まるで子供のようにそう言ってみたけれど、ドラマのように相手が現れるわけではない。それでも言わずにはいられなかった。それでも最後まで諦めたくなかった。
その時、私の心とは裏腹に、明るいメロディが携帯電話から流れる。メールだ。
『俺は絶対に行かないから帰れ。さよなら』
傷付きながらも、嬉しい気持ちがあった。どこかで見てくれていたのかもしれない。
「もう、本当に終わりなのね……」
完全な終わりを悟る中にも、まだ諦められない気持ちもある。
キャリアウーマンで名の通った私が、これほどまでに一人の男性に執着することなど、私自身思いもよらなかった。
わかった、帰るわ。でももう少しだけ、好きでいさせて。
土砂降りの中を歩き出すと、一台の車が横切っていった。