307 特別な日
「早くしろよ、ジム」
「そっちこそ足どけろよ、トム」
「急げよ。時間がなくなるぞ」
「待ってよ、サム」
三人の少年が、小学校のトイレの窓から逃げ出した。
三人はメルソン家の三兄弟。長男坊のサムを筆頭に、双子のトムとジム。普段は授業をさぼるなんてことはしないのだが、今日は特別な日だ。
「走れ。バスに乗らなきゃならないんだからな」
サムはそう言って、ジムとトムを引き連れて走っていく。やがて乗ったバスに、客たちは不審な目で見ている。
「ぼうずたち、今は学校の時間じゃないのか?」
「学校より大事なこともあるんだ」
「ほう。なんだね?」
「打ち上げさ」
そう言いながら、三兄弟の目はキラキラと輝いている。
そんな三人に、乗客たちもまた笑った。
「そうか、そうか。そうだな。今日は特別な日だ。特別に黙っておいてやるよ。気を付けて行けよ」
「うん」
やがて辿り着いた場所では、大勢の人たちが高揚している。
「あの中には入れない。僕らはここで見物としよう」
観客たちからかなり離れた場所に、三人は立ち止まった。金網が遮っているものの、そこには誰もいない。
サムはラジオをつけ、その場に座った。
「……天気は良好。風も穏やかで、シャトル打ち上げは予定通り行えそうです」
ラジオの声に、三人は歯を見せて笑う。
「イエス!」
三人の兄弟は、宇宙に心奪われていた。あの果てしない空の向こうに飛び立てたら、どれだけ素晴らしいだろう。
「時間だ」
ラジオからも、カウントダウンが始まる。三人は、一緒にカウントダウンを始めた。
「……6、5、4、3、2、1……」
途端、凄まじい轟音とともに、空に向かって煙の竜が上っていく。その先には、夢を乗せたスペースシャトルそのものがあった。
「やった! 打ち上げ成功だ!」
三人の目に焼き付いた打ち上げは、三人の夢をまた強くさせる。
その後、学校に戻った三人は当然怒られたものの、その目はずっと輝いていた。