304 分岐小説 「告白」
「付き合って!」
クラスメイトからの突然の告白。僕はあまりに突然すぎる目の前の女子に、口をパクパクさせることしか出来ない。
「なによ。勇気出して告白してるってのに、否定も肯定も出来ないわけ?」
「あ、いや、その……突然すぎるっていうか……」
しどろもどろでそう答えながら、僕は女子を見た。彼女は高校に入ってからの知り合いで、一・二年と同じクラスである。特に接点があるわけでもなかったが、なんとなく話すだけの女子。
でも僕はまだ女子と付き合ったことがなかったから、ちょっと嬉しい。
さてどうしたものか。
→ 「付き合う」(1へ)
→ 「断る」(2へ)
-----------------------------------------
1「付き合う」
-----------------------------------------
突然ながらも嬉しい告白に、僕はそっと頷いた。
「ありがとう。嬉しいよ」
「じゃあ、付き合ってくれるの?」
「うん。僕でよかったら……」
「嬉しい! じゃあとりあえず、握手」
「う、うん」
早速押され気味で少し戸惑ったが、人生初めての彼女に、僕の心も踊る。
「一緒に帰ろう」
その言葉に、僕は一瞬戸惑った。部活があるのだ。
のっけから断って嫌な印象を与えるのも嫌だし、かといって厳しい部活をさぼっては、あとで先輩たちから何を言われるかわからない。
彼女をとるか、部活をとるか。さて、どうしたものか……。
→ 「一緒に帰る」(3へ)
→ 「一緒に帰らない」(4へ)
-----------------------------------------
2「断る」
-----------------------------------------
人生初めての告白。僕は舞い上がったものの、冷静になって彼女を見つめた。
彼女は可愛いし、今後好きになる可能性もある。でも、どちらかというと、僕は自分から告白する女子より、一歩引いて待つ女子のほうが好きだ。
「ごめん。嬉しいけど、まだお互いよく知らないのに、その……付き合うとかって、よくわからない」
「じゃあ、駄目ってこと……」
「いや、あんたが駄目ってわけじゃなくて、その、うん……」
その時、彼女の平手が、僕の頬に思い切り飛んだ。
「女の子に恥かかせて! だったら普段から、思わせぶりな態度すんな! この優柔不断男―!」
反論する暇もないまま、暴言を吐き、彼女は去って行った。
人生初めての告白。人生初めての女子からの平手。人生初めての彼女にはならなかったけれど、彼女は僕に、人生初めてをいろいろ教えてくれたことになる。
それにしても、頬がヒリヒリと痛んだ。
(バッドエンド)
-----------------------------------------
3「一緒に帰る」
-----------------------------------------
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
僕の言葉に、彼女の顔が明るくなる。素直に可愛いと思った。
「本当? 嬉しい。あ、でも、部活あるんじゃない……?」
「いいよ、今日くらい。朝練も出たし、たまに休んでもいいと思う」
本当は早く帰りたくて、部活をさぼる口実が欲しかったこともある。
「じゃあ、かえ……」
そう言おうとした時、僕は目の前で仁王立ちしている、部活の先輩たちに気が付いた。
「せ、先輩!」
「おまえ……帰るんだって?」
一部始終を聞いていたように、先輩は僕の肩を組んでにやりと笑う。
「か、帰るわけないじゃないですか」
「え? 帰らないの?」
僕の言葉に、彼女が言う。この窮地に、バカ女……と思ったが、悪いのは僕だ。
「か、帰らねえよ、バーカ。おまえが帰れ」
先輩の手前、とっさに悪態をついた僕に、彼女は怒って去っていった。
「えらいな。おまえは可愛い後輩だ。女なんかにうつつを抜かすんじゃねえぞ。うちの部は、不純異性交遊禁止ってことを忘れたか!」
「す、すみません」
「行くぞ」
先輩に引きずられ、僕は部活へと向かわされた。体育会系のうちの部は、男女交際はもちろん、部活をさぼるなんてもってのほかだということを、一瞬だけど舞い上がって忘れていたのである。
先輩にぼこられなくて済んだが、その日のうちに、彼女から交際キャンセルの連絡が来た。僕の初めての彼女は、あまりにも短い期間で終わってしまったのだ。
(スピード別れエンド)
-----------------------------------------
4「一緒に帰らない」
-----------------------------------------
僕はバツが悪く、苦い顔をして口を開いた。
「ごめん。一緒に帰りたいのはやまやまなんだけど、部活が……」
そんな僕に、彼女は首を振る。
「ううん。そうだよね」
「本当にごめん。大会も近いし……」
「いいの。わかってる。私のために無理して休んでほしくないし。でも、今度デートしようね」
「うん。大会終わるまでは、いつになるかの保証は出来ないけど、行こう」
「嬉しい」
なんだかこの短時間で本当に心が通じ合ったように、僕らは恋愛というものを始めていた。
「どこに行くか、決めておけよ」
僕の言葉に、彼女は照れながら頷く。そして彼女は僕にキスをしてきた。
生まれて初めてのキス。女の子の顔があまりに近くにあったので、僕は目を瞑ることすら忘れ、その顔をまじまじと見つめてしまう。
「なんか……恥ずかしいね」
そう言った彼女に、今度は僕からキスをした。
「おあいこ」
初々しい笑顔が、僕たち二人から零れる。
「部活、頑張ってね。部活やってる姿を見て、好きになったの」
「ありがとう。なんか元気湧いてきた。頑張るよ」
恋が走り出す。青春の一ページ。
(ハッピーエンド)