300 Color
「ねえ。あのブランド、新作バッグ出たんだって」
友人の指先を、博子がふと見つめる。桁外れの値段に、博子は首を振った。
「あんなのいらないよ。どうせすぐ新しい物が出て、みんなそっちに行っちゃうんだから。中古で十分」
「博子。あんた変ったわね。前は中古だなんて気持ち悪いとか言ってたじゃない。古着も着れないし、新品じゃなきゃ嫌だって」
友人に言われ、博子はふと気付かされた。
「そういえば、そうだったね……でも、もう何年も前の話じゃない。私だって堅実な大人になってってことよ」
「人は男で変わるもんねえ」
その言葉に、博子は悲しく微笑む。
確かに、昔は派手に遊んでいた博子も、一人の恋人によってずいぶんと変えられた気がする。
(ブランドバッグなんか持って、何が幸せだ? そんな金があるなら、美味しいもの食べたっていいし、服だって安くてもコーディネート次第だろ)
そう言った彼の言葉を思い出し、博子は笑った。
数個年上の彼は、それだけでもう大人の男性といった様子で、今まで付き合ってきた誰とも違う魅力があったのだが、数週間前に、些細なことで喧嘩をして別れている。
今日はその傷心を癒すために、友人と買い物に来たのだが、未だ染みついている彼の言葉や行動に、もう笑うしかない。
「なあに? 思い出し笑いなんかしちゃって」
「なんでもない……でも、あなた色に染めて、なんて言葉があるけど、こうしてみると私、本当に染められてた気がする」
「相思相愛だったもんね。なんで別れちゃったの……って、禁句だね」
「……先が見えなくなったんだ。ただ一緒にいるだけで満足する年齢でもないし。でも、ありがとう。ショッピングして、ちょっと元気になった」
まだ空元気だったが、博子はそう言って笑う。友人もまた笑った。
「少しでも元気出してくれたならよかったわ」
「うん。早く忘れられればいい……あの人に染められたんなら、元の白に戻さなくちゃね」
「戻るのかしら?」
「ホワイト(修正液)になるわ」
「あははは」
思い出は消せないだろう。だが博子の心は、確実に前を向いている。