297 新・北風と太陽
「北風と太陽」という童話はご存じだろうか。かの有名なイソップ童話に収録された有名なお話のひとつ。
「僕はどんなものでも吹き飛ばせるよ。世界で一番強いのは僕だ」
北風が言いました。
「確かに君は強いけれど、世界で一番というのはどうかな」
太陽が言いました。
「じゃあ、力比べをしようじゃないか。あそこを歩いている旅人の上着を脱がせたほうが勝ちだよ」
「わかった。じゃあ僕もやってみよう」
まずは北風が、旅人に息を吹きかけました。
しかし旅人は、あまりの寒さに上着を頑なに脱ごうとしません。
「じゃあ、今度は僕の番だね」
今度は太陽が、ぽかぽかと旅人を照らしました。
すると旅人は、暑くなって上着を脱ぎました。
というようなお話。
さてこの童話、どこでも北風が悪者のように描かれていますが、果たしてそのお話が、実は太陽から仕掛けられたお話だったら……この物語は、そんな新たなお話。
「北風君。このところ僕がいなくなったら、世界は滅びてしまうだろう。世界で一番強いのは僕だ」
太陽が言いました、
「確かに太陽君は大きくて強い。でも、世界で一番というのはどうかな」
北風が言いました。
「じゃあ、力比べをしようじゃないか。あそこにを歩いている旅人の上着を脱がせたほうが勝ちだよ」
「わかった。じゃあ僕もやってみよう」
まずは太陽が、ぽかぽかと旅人を照らしました。
しかし、厚い雲に覆われた今日では、太陽の光も熱も届きません。
「じゃあ、今度は僕の番だね」
今度は北風が、空に向かって息を吹きかけました。
すると、厚い雲は嘘のように晴れ、太陽が顔を覗かせます。
辺りはすっかり暖かくなり、旅人は上着を脱ぎました。
「どちらが強いという話は馬鹿馬鹿しい。僕たちが力を合わせれば、世界はもっとよくなるだろう」
これもまた教訓、のはなし。