293 気になるあいつ
(今日もあいつは遅刻か……)
私は隣の席を見つめて、そう思った。
ふと窓の外を見ると、遅刻だというのに、余裕の歩調であいつが歩いてくるのが見える。
でも、私にはわかってる。もう授業が始まっているから、あいつはこの時間に教室には来ない。窓際でかつ隣の席だから、気付いたこと。
休み時間になって、あいつはやっと教室に入ってきて、隣の席に座った。
「どこにいるの?」
ふと思った疑問を口にした私に、あいつは怪訝な顔をする。
「は?」
「あ……三十分前には来てたでしょ? 知ってるんだから」
そう言った私に、あいつは憎たらしく微笑む。
「ひみつ」
そう返され、私は息を吐いた。
まあ、そこまで仲のいい関係じゃない。でも、ちょっと不良で、でもとっつきにくくもないあいつに、私はどんどん惹かれてる。
「二時限目、何だっけ」
「現国」
あいつがそう言ったので、私はとっさに答えた。
すると、あいつは立ち上がる。
「え、どこ行くの?」
「腹いてえ。保健室行くわ」
止める暇もなく、出て行ったあいつ。ふと、あいつの椅子の近くに、ラッピングされたプレゼントのようなものが落ちていたのに気付いた。
「なんだろう、これ……」
小さな箱状のものは、明らかにプレゼントだ。
「プレゼント……」
誰にあげるつもりなんだろう。あいつの好きな人って誰だろう。少なくとも、私じゃない。あいつのこと、何も知らないから……。
(やばい。どんどん気になるよ……)
私は人知れず真っ赤になって、火照った顔を覚ますように、窓の外を見つめた。
すると、あいつの後ろ姿が見える。あのまま学校を出ていくつもり?
どんどん気になっていく。私の恋が始まる。