287 苦しみの果てに
※ BL要素を含みます。苦手な方はご注意ください。
物心ついた時には、すでに体の異変には気付いていた。
僕の身体は男なのに、僕は男ばかり好きになって、しまいには女性になりたいとまで思った。
子供の頃は、女の子の服を着たいとねだっても、おもしろいからとお母さんはお姉ちゃんの服を僕に着せたりしてみたけど、大人になった今は、そんなこと言い出せはしない。
思春期は辛かった。声は低くなる一方だし、体はどんどん男の身体になっていく。
女性を好きになったこともあるけれど、今ではもう、諦めている。
僕は異常なんだ。僕は病気なんだ。死にたい、とまで思った僕を止めたのは、母親だった。
いつでも僕を一番に理解してくれる母親は、泣きながら僕を抱きしめ、撫でた。
でも、僕はいつでも一人きり。
公表することも出来ず、女として生きたり、体を改造するまでには至らない。
それでも僕は、叶うはずのない恋をする。
大学の先輩。後輩思いで親切で、まぶしいくらいの笑顔に、女子たちも放ってはおかない。
やめろ、触るな。僕は心の中でそう怒鳴りながら、先輩を見ることすら諦める。
でも、気持ちまでは諦められない自分がいた。
「こんなこと言うの、おかしいと思う。でも聞いてくれ。俺はおまえが好きだ」
誰の口から出た言葉なのかわからないほど、突然の言葉に、僕は気を失いそうになって足元をふらつかせた。
目の前にいるのは、僕の大好きな先輩。
先輩、先輩、先輩――。
僕の目から溢れた涙に、先輩は僕を抱きしめる。
夢じゃないだろうか。傷付きたくない僕は、とっさに身構え、悪戯ではないかと警戒した。
でも先輩の目は優しくて、僕らはそこでキスをした。
「嫌、だったか?」
先輩の言葉に、僕は勢いよく首を振る。
「嫌なもんか。僕は……僕のほうが、先輩のこと好きだ」
そう言った僕に、先輩は嬉しそうに微笑む。
「よかった。俺たち、相思相愛だったんだな」
「先輩は、ノンケだと思ってた」
「俺もだよ。でも……好きなのに性別も何もないよな。手放したくない。一緒にいたい。それだけじゃ不満か?」
「ううん。僕のが好きだってば」
僕は初めて、性別も何も関係なく、人間でいられてよかったと思った。
そしてその日、生まれて初めて出来た恋人の報告を、母親にする。
僕の苦労はこれからも続くだろう。また母親を悲しませるかもしれない。
でも、これが僕で、他の誰でもないんだ。
僕が人生を諦めない限り、夢は叶うと信じている。




