283 誤メール殺人事件
「安住曜子さんが、亡くなりました」
高校の緊急全校集会で、校長が言った。
私は息が止まる思いを堪え、教室へと戻っていく。
亡くなった安住さんは学年は一緒だけどクラスが違う。一緒になったこともないし、部活も違うので、私とはなんの接点もない。
また、死因はまだ特定されていないらしいが、私はそれを知っていた。殺されたのだ。
『安住を殺した』
そんなメールが私に届いたのは、今日の明け方。
知らないメールアドレスに、私はただのイタズラメールだと思って、忘れることにした。安住さんとは接点もないし、その時の私はまだ何が起こったのかわからなかったから。
「……ホリ。私、相談が……」
私は仲の良いクラスメイトの女子・ホリに、そう言いかけた。
その時、私の携帯電話が震える。
「折本? 電話鳴ってる」
私はそう言われ、電話を開いた。すると、メールが来ている。
『おまえ、二年の折本だな。今朝のメール、誰かに話したらおまえも殺す』
誰かに見られている感覚に陥り、私は辺りを見回した。でも、そう思うと、みんなが怪しく見える。
その時、始業のチャイムが鳴り、私は俯いた。
「折本。相談はあとで聞くね」
「ホリ……あ、ううん。なんてことないの。今度でいいや」
私はそう言って、席に着き、携帯電話を見つめる。
『あなたは誰ですか?』
授業中、私はそんなメールを返してみた。すると、意外に返事が早く届いた。
『詮索するな。次はおまえだ』
怖くてたまらない。殺される日に怯えるなら、誰かに話して楽になりたいとも思う。
「顔色悪いよ、折本」
「うん。ごめん、保健室行ってくる……」
私は青白い顔をしながら、保健室へと向かっていった。
「二年の折本です。気分が悪いんですけど……」
「あら本当。少し休んで」
「ありがとうございます……」
「どこか痛い?」
「いえ……」
「じゃあ、悩み事?」
先生にそう言われ、私はもう我慢出来なくなって涙を流した。
「折本さん。どうしたの? 私でよければ話して」
優しい先生の笑顔に、私は事情を話す。
「そ、それは警察に話したほうがいいんじゃ……」
「いいえ。先生が黙っていてくれれば、私も殺されません。でも私、一人で秘密にしておくことは出来なくて……お願いだから黙っていてください」
「……携帯電話はどこに?」
「教室に置いてきちゃいました……」
「そう。どちらにしても悪い子ね。黙っていろって言ったのに」
突然、先生は背を向けてそう言った。
「……先生?」
「睡眠薬でも飲ませて、あとでじっくり殺そうかしら」
それを聞いて、私は後ずさる。
「せ、先生がやってんですか? 安住さんを……」
「ごめんなさいね。あなたにメールを送ったのは間違いだったのよ。違う人に送ろうと思っててね」
「だ、誰にですか?」
「まあ、どうせ死んでしまうんだから教えてもいいかもね。尾根先生よ。私と尾根先生の不倫現場を安住さんに目撃されて、仕方がないから殺したの。先日の修学旅行で、二年の生徒全員の連絡先を登録したんだけど、まさかそれが仇になるとは思わなかったわ」
尾根先生は、私のクラスの担任だ。子供もいる既婚者だけど、まさか先生たちがそんな関係とは夢にも思わなかったし、安住さんを殺したのが先生というのも信じられない。
「こ、殺さないで……」
「苦しめたりしないから大丈夫よ」
近づいてくる先生に、私はパニック状態になり、保健室の窓から飛び出した。一階だったので、怪我もしない。
「待ちなさい!」
先生は不意をつかれたらしく、後れを取っている。これならやり過ごせる。
だが、私に気付いて追いかけてきたのは、保険の先生だけではなく、男性教師の尾根先生も増えている。
「助けてー!」
でも、そこは校舎の表側。生徒は教室に入っているし、校庭にも遠い。このまま学校を飛び出せば助けを求められるかもしれないが、今ここには誰もいない。
「待て、折本!」
男の尾根先生に追いつかれるのは簡単だった。
私は羽交い絞めにされ、絶望に涙した。
「助けてください……」
「落ち着け」
「だって、私を殺すんでしょ?」
「おまえは俺の生徒だ。殺すわけないだろ! 今だって、おまえの具合が悪いと聞いて様子を見に行っただけだ」
その時、保険の先生が追いついてきた。尾根先生は私を掴んだまま、振り返る。
「尾根先生……」
「やっぱり、あんたが殺したのか」
尾根先生の言葉に、私は二人を見つめた。
「そうよ。ちょっと狂ったけどね。私は本気だって言ったでしょ」
「やめてくれ! おまえは最低の人間だよ」
やがて、どこからともなく人が集まり、警察が来て、保険の先生は逮捕された。
保険の先生は尾根先生のことが好きで、誘惑していたらしい。無理にキスしたところを安住さんに見られ、付き合ってくれなければ安住さんを殺すと、逆手に取って尾根先生に迫ったのだと後で知った。保険の先生の一方的な行動だったそうだ。
尾根先生も、それから学校を辞めなければならなくなったけれど、私は先生に守られて、少しは恐怖心を取り除けた気がした。それをすべて拭い去るには、私が教師になって、生徒たちを守れたらと思っている。