282 愛のバンソーコ
「いったーい」
中学校の教室。掃除の時間に、女子がそんな声を漏らした。指から血が出ている。
「俺、バンソーコあるよ」
そう言ったのは、クラスメイトの勇太だ。
「え、勇太ってば、持ち歩いてるの?」
「うん。癖みたいなもん。はい」
その時、隣のクラスの美保が顔を覗かせた。
「勇太。バンソーコちょうだい」
「なんだ、美保。またやったのかよ」
二人は幼馴染みだが、中学に入ってからはクラスが違う。だが、美保はよく勇太を訪ねてくる。
「転んで膝擦りむいた……」
「またかよ、ガキだな」
「なによ。でも勇太ならバンソーコ持ってると思って」
「おまえのせいだろ。しょっちゅう怪我して血出しやがって」
そう言いながらも、勇太は美保の膝にバンソーコを貼ってやった。
よく怪我をする美保に、勇太はバンソーコを持ち歩くのが当たり前になっている。
「お、相変わらず仲睦まじいですなー」
クラスメイトたちが冷やかすので、勇太は真っ赤になって立ち上がる。
だが、美保もまた真っ赤になって、勇太を止めた。
「ありがと、勇太。バンソーコ、補充しといてよね」
「おまえが用意しとけよ。そんで俺にもちゃんと返せよ」
「セコイ!」
去っていく美保が数日後に勇太に渡したのは、大量のバンソーコが入った箱である。箱には大きくハートマークが手書きで書かれている。
勇太は指先でそのハートマークに触れると、嬉しそうに微笑んだ。