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028 秘めた想い

 妹が兄に憧れるなんて話は結構耳にするけど、姉が弟に恋してるなんて話、少なくとも私の周りにはない。私以外には――。

 私の名前は、坂崎良子。一歳年下の明を意識したのは、明が中学生になった頃だろうか。

 明も思春期で、同じ学校に通う姉の私を避けるようになっていた。後で聞いたら、学校の友達にからかわれるからという理由。

 私も同じく思春期で、明がうざったい時期でもあった。

 そんなお互い避けてた頃、私は風呂上がりの明に、一瞬心を奪われた。

「風呂空いたよ」

 たった一言、固まっている私に言って去っていく明の体は、私より小さかった弟ではなく、もはや逞しい男性の体つきをしていたからである。

 その理由は、明が体育会系の部活に入っていたからに他ならないが、すでにその頃、声変わりも始まっていた明に、私は異性として意識した。


 それが異常なことだとは思ったけれど、それからの私は、意識を失くすどころか、ますます明を意識しだすようになった。

 だけど残念ながら、私たち姉弟は、正真正銘の兄弟である。親も離婚経験なんてないし、遊んでいたという話も聞いたことがない。なにより明は、私によく似ている。

 それでも私の意識が、明から離れることはなかった。


 五月晴れの下、おとぎ話の世界のような場所に、私は降り立った。

「姉ちゃん。来てくれたんだ」

 そう言って出迎えた明は、もう思春期で避けている明ではなく、私に満面の笑みを向けてくれる。今日は一段と格好が良い。

「当たり前でしょ。弟の晴れ姿、姉として見ないとね」

「ありがとう」

 そこに、従業員と思しき男性が、部屋に入ってきた。

「坂崎様。そろそろお時間です」

「はい。じゃあ、姉ちゃんも行って」

「そうね……」

 チャペルの鐘が鳴る。

 バージンロードの先にいる明は、優しい笑みで新婦を出迎える。もちろん、それは私ではない。

 私は親族席に座り、その光景を、ただただじっと見つめていた。


 愛してる、という言葉を口に出すのも許されぬまま、私の気持ちを知らぬまま、明は他の女性ひとのものになった。

 もう、私の知っている明はいない。

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