279 出ばな
今日は俺の初デートの日。中二にしてやっと出来た、憧れの同級生と遊園地に行くことになっている。
俺は女子ばりに洗面台の前を陣取り、髪型から眉毛まで、整えることを欠かさない。
「よし、俺ってカッコイイ。自分で惚れ惚れするぜ」
そんなカッコつけた俺に見向きもせず、高校生の姉ちゃんが洗面所に割り込んできた。
「ハイハイ、終わったらさっさと退く」
「ひでーな。俺、どうよ。イケてる?」
歯を磨き出した姉ちゃんは、冷めた目で俺を見てる。
「……」
「なんだよ。感想なしかよ」
「まあ大抵、自分でカッコイイとか思っちゃってる大バカ野郎は、カッコよくないと思ったほうがいい」
格言のように、姉ちゃんはそう言い放った。
「じゃあなんだよ。俺がカッコよくないとでも?」
「あーうざい。それがダメだっての。ほら襟立てない。髪撫でる。背筋伸ばす」
そう言って、姉ちゃんは俺の身だしなみを整えていく。
「じゃあ俺……ダメ?」
「私の彼氏にするんなら不合格。でもま、ガキんちょの初デートにはちょうどいいんじゃない?」
「なんだよ、それ! バカ姉貴!」
俺はすっかり出ばなをくじかれ、待ち合わせ場所へと向かっていった。自信なんか持てない。
そんな時、すでに来ていた彼女を見て、自分のことなんかどうでもよくなった。
「ごめん、待った?」
「ううん。早く来ちゃって……なんか制服じゃないから、変な感じ」
「あ……変かな、俺のファッション……」
「そんなことないよ。カッコイイ」
「ほ、本当?」
「うん。襟元も髪型も決まってる」
全部、姉ちゃんが直したところじゃん……と思いつつ、俺は姉ちゃんに感謝した。あのまま自分の美学を貫いていたら、やっと射止めた彼女を手放すことになったかもしれない。
「よ、よかった……じゃあ、行こうか」
「うん」
出がけに出ばなをくじかれたものの、俺の初デートは成功に終わった。これから先も、姉ちゃんの言葉は聞いておこうと、内心思っている。