272 魔女
「捕えろ! 魔女狩りだ」
その声に、一人の少女が縄で縛り上げられた。
少女の名は、ローリー。まだ十六歳の少女であるが、容赦なく縄で縛られる。
「やめて! 私が何をしたというのです」
涙を流して懇願するローリーに、数人の女たちが目に映った。
「純情そうなふりをして、よくそんなことが言えるね。私の旦那を寝取ったのは誰なんだい。この子の恋人を誘惑したのは誰なんだい」
「私は何もしていないわ! 私から誘ったわけではないもの」
「魔女め!」
「お願い。私は何もしていない……」
広場で見せしめのように縛りあげられたローリーは、一晩中、女たちに罵られた。
ちょうどその時、馬車が停まった。
「なんの騒ぎだ?」
馬車から顔を覗かせたのは、旅の途中で通りがかった、貴族の青年である。
「魔女狩りのようですね。朝になったら殺されるのでしょうか」
一緒にいた人間がそう言うと、青年は馬車から下りて、その光景を間近で見ようとした。
「まだ少女じゃないか」
「でもれっきとした魔女ですよ。綺麗な顔してるからって、近付かないほうがいい」
青年に向かって、罵っていた町民がそう答える。
「許して……」
もはや力なくそう言ったローリーに、青年は眉を顰めた。
「私が後見人になるから、その子を離してやってくれないか」
青年の言葉に驚いたのは、そこにいた全員である。当人でもあるローリーもまた、その救いの主に顔を上げた。
「金を払ってもいい。これも何かの縁だ。可哀相じゃないか。こんな子供相手によってたかって……」
そう言いながら、青年はローリーに巻かれた縄を切る。
「もう大丈夫だ。私と一緒に来なさい。うちで雇ってあげるよ」
「……ご主人様……」
難を逃れた小犬のように、ローリーは青年を見てそう言った。
「ああ。さあ行こう」
力の入らないローリーを軽々と抱き上げ、青年は馬車へと戻っていく。
青年の腕に抱かれながら、ローリーは不気味な薄ら笑いを浮かべていた。