表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/371

269 夏休みのセンチメンタル

「夏休みはどっか行くの? うちは沖縄行くんだ」

 友達の言葉に、私は明るく笑う。

「いいなあ。うちはどこにも行かないよ」

 内心やっぱり寂しいけど、親が離婚してお母さんはただでさえ忙しいので、旅行なんか行かないし、もともと私も好きじゃないからいいんだ。我慢することには慣れてる。

「そうなんだ。前半はいるから、一緒に宿題しようよ」

「うん。今年は早めにやっちゃいたいな」

「わかる。でも結局ギリギリになっちゃうんだよね。じゃあ、また連絡するね。バイバーイ」

「バイバイ……」

 友達と分かれて、私は小学校最後の夏休みを迎えた。さてこの長い夏休み、どうやって過ごそうか。

 そんなことを考えていると、家に着いていた。

「おかえり……って、なんだ、真奈ちゃんか」

 私が帰ってくる音で出て来たのは、叔母さんだ。お母さんの妹だが、もともとお母さんと仲が良くないし、私も苦手な人。

「ただいま……」

 言葉少なめに、私はそう言って自分の部屋へと入っていく。この家には、あとはおじいちゃんとおばあちゃんまでいるけれど、みんな別々に暮らしている。

 離婚して実家に戻ってきた私たち家族。お母さんの実家ではあるけれど、私からしてみれば他人の家に間借りしている感じで、どうにも居心地が悪いし勝手が利かないので、夏休み中ずっと部屋にこもるわけにはいかないだろうし、なによりここは冷房もないので暑い。


 夏休みに入ると、結局行くところがなくて、友達と図書館や駅ビルなんかで遊ぶ。でも友達も塾や旅行があって、結局一人でいる方が楽な自分もいる。

「図書館も飽きたし、デパートにいるのも限界があるし……」

 行きついたところは、大きな公園。空いているベンチで一日中、空想に耽っていると、まるで自分の境遇が馬鹿馬鹿しくなった。

「お父さん! ボート乗りたい!」

 向こうの方で、池のボートをせがむ小さな男の子の姿に、私は悲しく微笑んだ。

「ボート……乗ろうかな」

 お父さんを望んでもいないものはいないし、喧嘩の原因となったお父さんに会いたくはない。私は幸せだけど、こういう時はセンチメンタルにもなった。

 結局、私は一人でボートに乗るのは惨めすぎると思い、その場を後にした。

 背後には、さっきの男の子がお父さんとボートを漕いでいる。その様子を遠くから優しげに見つめているのは、男の子のお母さんだろうか。

「暑い……」

 木漏れ日は焼けるように暑いが、吹き抜ける風が余計にありがたく感じる。

「いつか……」

 いつかここに……私に家族が出来たらここに来て、一緒にボートを漕ごう。それまでは、たまにはセンチメンタルでいさせて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ