264 星の隙間で
ビリビリと、大爆発の震動がこちらにも伝わってきた。
宇宙戦争が勃発している今、僕もまた小型船で戦っている。
「アンディ、後ろ!」
仲間の声に、僕はすぐさま振り向いて、ロケット砲を発射した。目の前にまで迫っていた敵の船が、煙を吐いて落ちていく。
「油断していたとはいえ、僕の後ろを取るなんて……」
僕はこれでもエース。後ろを取られたことにプライドが傷付き、落ちていく敵兵の顔を拝んでみたくなった。
「これで最後だな。僕はちょっと用が出来た。先に戻ってくれ」
僕は仲間にそう言うと、敵の船が落ちていった星へと向かう。僕の家もこの星にある。
船を不時着させると、僕は辺りを見回した。この辺りは戦闘区域で、落ちた船の残骸がガラクタのように横たえている。
「あれか」
落ちたばかりの船の黒煙を見つけ、僕は銃を構えて船に近付いた。脱出ポットが開いていないから、船の中で死んでいるのだと思う。
が、船内に見える顔は、血だらけの女性だった。
「女……?」
僕は驚いて、船の扉を開ける。僕の後ろを取ったのが女だなんて知れたら恥になる。男の世界に生きてきた僕にとって、そう思うのは当然だった。
だが、目の前に横たわっているのは間違いなく女性で、それもまたうちの隊にはいないような、美しいほどの女性だった。
「生きてる……」
力はないが辛うじて呼吸をしている敵兵の女性を、何を思ったか僕は担ぎ上げ、そのまま僕の船に乗せた。
何を血迷ったのだろう……自宅で女性を介抱しながら、僕は苦痛に顔を歪めた。僕のプライドが許さなかったから? 美しい女性だったから? 答えのない問いを繰り返しながら、僕はただ僕のベッドで横たわるその女性を見つめていた。
女性は数日間、目を覚まさなかった。
だけど僕は彼女を殺すこともなく、ただ街外れの小さな家で、軍服を脱ぎただの女性としか見られないその人を、ただただ介抱していた。
「ただいま……」
返事のないのはわかっているが、僕は仕事から帰ると、今日も目を覚まさないであろう彼女のベッドに向かう。
だが、そこに彼女の姿はない。
「どこだ……どこだ?」
目を覚ましたなら、ここが敵の家だとわかり、すぐに出ていくだろう。それとも僕を待ち伏せして殺すだろうか。
そんなことを考えていると、ベッドの向こうにうずくまる人影が見えた。彼女である。
「おい! 大丈夫か」
途端、振り向いた彼女に、僕は驚いた。
「ここは……?」
彼女に戦闘意識はまったくなく、ただかよわい女性のように怯えた目で僕を見つめている。
「ここは僕の家だ。君は……倒れていて、僕がここに運んだ」
少し嘘をつきながら、僕はそう言った。
「……倒れていた?」
「僕はアンディ。君の名は?」
「……わ、わからない……」
「わからない?」
「なにも思い出せない! 自分の名前も、どうして私がここにいるのかも……!」
一時的な記憶喪失は、仲間内でも見たことがあった。
「じゃあ、君の名前を考えよう。君の記憶が戻るまで、君の体が回復するまで、ずっとここにいていいから……」
その時、僕は初めて女性に恋をしたのだと納得した。
後に迎えるであろう悲劇を、今は考えたくはない。今だけ敵や味方など関係なく、ただの男と女でいたいと思う。誰も見ていない、この星の隙間で……。