263 二次元カノジョ
薫は中学二年生。最近、廊下ですれ違った、三年生の男子に恋心を抱くようになった。
「川野先輩っていうらしい……」
名前の情報を仕入れるだけで、かなりの苦労があった。
「ええ? 結構平凡な顔じゃない。どこがいいの?」
同級生からそう言われても、自分でもわからない。ただ一目惚れのように、彼を追っている自分に気付いている。
「先輩、受験だし、話すきっかけもないよな……せめて何部に入っているのかわかれば……」
ちょうどその時、またも廊下を歩いている意中の彼を発見し、薫は硬直した。でも、今しかない。
「か、か、川野先輩!」
すれ違いざまにそう呼ぶと、川野は首を傾げる。
「誰だっけ?」
「あの、二年の大塚薫って言います。あの……川野先輩のことが好きです!」
「ごめん。俺、二次元にしか興味ないんだ」
一瞬の玉砕。ためらいもなくそう言って去っていく川野に、その場にいた同級生たちは避難の嵐を浴びせるが、川野は何とも思わないようで、そのまま去って行ってしまった。
「やめなよ、あんなやつ。ただのオタクじゃん。カッコ良くもないんだしさあ」
「そうだけど……ひどいけど……でも好きなんだもん!」
薫は半べそをかきながら、教室へと入っていく。
その日から、薫の闘争心というものに火がついた。フラれたショックで落ち込むこともなく、恋心というものも忘れ、ただひたすらに、見返してやろうという気持ちが大きく、漫画やアニメ雑誌を買い漁る。
「やだ……結構いい話じゃん」
レアなアニメまで見終わり、薫はアニメに涙した。
翌日、薫はコスプレ衣装に身をまとい、再び川野へ挑戦を挑むことになる。